A MOUNTAIN OF ONE
早耳リスナーの間で話題騒然となっているマウンテン・オブ・ワンが、ファースト・アルバム『A Mountain Of One』を完成させた。UKロック・シーンでキャリアを積んできた3人のコア・メンバーを中心に、ブラジル、チリ、キューバ出身の腕利きミュージシャン、さらに元アダム&ジ・アンツのデイヴ・バルバロッサを加えた総勢8名によって、幻惑のプログレッシヴ・グルーヴを展開。バレアリックやコズミックなどのクラブ文脈で語られることも多い彼らだが、多数の音楽要素を溶解したそのサウンドは特定のカテゴライズを拒んでいるかのようにも聴こえる。
「バレアリックと呼ばれるよりも、サイケデリック・バンドと言われるほうがしっくりくるな。しかもこの前なんてカントリー・ロックのレーベルから電話があったよ(笑)」(レオ・エルストブ)。
そう、マウンテン・オブ・ワンはダンス・ミュージックとして機能しつつも、いにしえのサイケ・ロックが持つ香気を濃厚に漂わせている。
「僕らにとってサイケデリックとはある種の空気感を創造し、音や全色彩を用いて意識の変化を表現する手段。そしてカオスさえも抱擁したものさ」(モー・モリス)。
彼らをサイケ・バンドとして捉えてみると、なるほど、70年代のアモン・デュールや90年代のムーンフラワーズなど集団演奏によるトライバルな方向性を持ったグループと近い匂いを感じるが、どちらもコミューン的なメンバー関係を背景にしていたバンドだ。果たしてマウンテン・オブ・ワンの場合はどうなのだろう。
「僕らがヒッピーなんじゃないかってこと? まさにそのとおりだよ! 音楽を作るうえでコミュニティー意識を持つことはとても大事だ。そうした根底で結ばれていないと本当にクリエイティヴな仕事はできないよ。そうすることで、みんなでジャムっている時でも自然と良いヴァイブスが生まれるんだ」(ゼベン・ジェイムソン)。
また、彼らのサイケデリックという骨子は、〈スペース・ロック〉と称されたホークウィンドやゴングからイアン・オブライエンなどのクラブ・ミュージックにまで繋がるスピリチュアルな宇宙性を内包している!
「意識的にスペイシーなイメージを膨らませるようにしてるよ。神秘的でディープな宇宙の魔力は自然界の中でもっともスケールが大きくて美しいものだと思うから、それを表現したくなるのも無理はないだろ?」(モー)。
宇宙の深淵を垣間見せる彼らのサウンドは確かに美しい。ミニマルな要素があってもそれは単なる反復に終わることなく、リズムの上を情感豊かに移ろっていくメロディーが印象的に響く。そこには永遠という長い時間を、楽曲という一瞬に封印するようなタイムレスな感覚があるのだ。
「僕らは周囲に妥協するようなことはしたくないから、一曲一曲に感情を込めて後世に受け継がれるようなサウンドを作っているよ。いまの音楽はきっと後に〈良い音楽〉〈流行物〉〈商業目的だけの音楽〉みたいな分類をされるだろうけど、マウンテン・オブ・ワンはそれらを超越した存在になりたい。アイデアが弱いものは月日が経つと忘れ去られてしまうけど、僕らのアイデアは力強いものだと信じている」(レオ)。
実に頼もしい発言だ。時制からもジャンルからも解放されたサウンドは当然UKシーンのメインストリームからも(良い意味で)逸脱しているわけだが、最後に現在のバンドの立ち位置について訊いてみた。
「僕らは既存するシーンのどんな領域にも当てはまらない。いまは自分たちのやりたいことがやれてハッピーさ。でもいつの日か僕らの音楽がマスにアピールできる時がくれば嬉しいね。そういう意味ではアーケイド・ファイアみたいなバンドが成功したのはとてもエキサイティングだよ。妥協しなくてもやれるんだっていう自信を持たせてくれたから!」(レオ)。
PROFILE
マウンテン・オブ・ワン
ゼベン・ジェイムソン(ヴォーカル/ピアノ/ギター/プログラミング)、モー・モリス(キーボード)、レオ・エルストブ(キーボード/パーカッション)、デイヴ・バルバロッサ(ドラムス)、クレイトン(ドラムス)、キャサリン・プラド(キーボード)、ジミー(ベース)、デイヴ・ノーブル(ギター)から成る8人組。2005年にゼベン、モー、レオの3人によってロンドンで結成。ライヴを行うために5人のメンバーを加えて現在の編成となる。2006年に『EP1』、2007年4月に『EP2』を発表。その後はバッドリー・ドローン・ボーイのリミックスを手掛けるほか、〈グランストンベリー〉にも出演。このたび10月3日にファースト・アルバム『A Mountain Of One』(10 World/ICE DREAM)をリリースする。