BOYS NOIZE
「キッド・アレックス名義では、もっと歌を入れ込んだディスコ・エレクトロ・ロックみたいなのをやっていたんだけど、いまデジタリズムなんかが有名になったことを考えると、俺がキッド・アレックスでやってた音楽は少し時代を先取りしすぎていたようだな」。
同郷のデジタリズムに対して皮肉交じりにこう語るのは、2枚のアルバムに加え、数々のシングルやリミックスも手掛けて順調にキャリアを重ねてきたキッド・アレックスことアレクサンダー・リダ。弱冠16歳ですでに500人の前でのライヴ・セットを成功させ、ドイツ中からブッキングが殺到したという早熟なプロデューサー/DJだ。よりパーティー向けのパワフルな音を求め、2003年よりボーイズ・ノイズ名義で制作を開始しているが、ここ1、2年の状況はご存知のとおり。イヴァン・スマッグ、トレヴァー・ジャクソン、2メニーDJ'sなど、いまをときめくDJ陣からも支持を取りつけたパンキッシュでダーティーなディスコ・トラックは、フレンチ・エレクトロ勢との共通点も語られているが、本人はさほど気にしていない……どころか対抗意識満々!?
「キツネが俺の音楽のファンで、リリースさせてほしいって頼まれていたんだけど、俺はそんな乗り気じゃなくてね。彼ら自身は凄くイイ奴らだけど、音楽は好きじゃないんだ。それで俺がやったブロック・パーティーのリミックスをキツネが入手して、2年後の2006年にリリースしたんだ。あと、“Feel Good(TV=Off)”って曲を作ったんだけど、自分のレーベル向きじゃないなって思ってキツネにあげたら、ちょうど彼らが喜んでくれたっていうのが正直なところかな」。
自身のキラー・チューンもぞんざいに切り捨てる豪快さ、というか憎たらしい生意気な態度! 楽しくも凶暴なボーイズ・ノイズのサウンド・イメージそのまんまな発言が彼なりのユーモアなのか、本気のアティテュードなのか、真意は定かではないが、何だかワクワクさせられる。デペッシュ・モード、ティガ、ファイスト、ティーンエイジ・バッド・ガールズなど、彼が注目されるに至った数々のリミックス・ワークについても、テクノ界の大御所の言葉を引用しつつチクリときた。
「リミックスは好きだよ。自分の曲を最初から作るよりは簡単に出来上がるしね。オリジナルでハーモニーがある部分はなるべくいじらないようにしているけど。俺がリミックスする時は、原曲と違うようでありながら、なおかつ原曲のフィーリングを保つように心掛けているんだ。それと、前にカール・クレイグが言ってたけど、リミックスは自分の良いプロモーションになるよね。だから、彼はオファーされたらすべて引き受けるんだってさ。俺はそのバンドとか歌が好きじゃないとやらないけどね」。
まさに言いたい放題。しかし彼がただのビッグマウス野郎じゃないことは、今回登場したアルバム『Oi Oi Oi』を聴けば明白だ。「曲が溜まったから出しただけ」のアルバムとは到底思えない、人々をクレイジーに燃え上がらせるエネルギーが渦巻き、緻密なプロダクションが冴え渡っている。
「サウンドが協調するように細部まで気を遣っているんだ。音楽には特有の空間が必要で、俺にはサンプラーよりもTR-808のほうが合っている気がするよ。最近は曲が大音量で歪んでいればカッコイイと思って、プロダクション過程を大事にしない連中がいるけど、信じられないね」。
最後に余計な一言を付け加えるのは忘れない彼だが、裏を返せばそれだけ真剣に音楽と格闘しているということの表れなのかも。そんなボーイズ・ノイズがどれだけ人々を熱狂させているかは、こんなエピソードからも確認できる。
「ベルギーのイヴェントでオーディエンスが歌い出して、サッカーのスタジアムでやるようにみんな一斉に足を踏み鳴らしはじめたことがあったな。1万人がそうやったらどうなるか……想像つくだろ?」。
性格は悪そうだけど、こんな話を聞かされたらほっとけないよね?
PROFILE
ボーイズ・ノイズ
ベルリン出身のアレクサンダー・リダによるソロ・プロジェクト。14歳から音楽活動を開始し、2000年にキッド・アレックス名義でデビュー。2003年よりボーイズ・ノイズ名義での活動を並行させ、翌年にインターナショナル・ディージェイ・ジゴロからファースト・シングル“The Bomb”を発表する。2005年に同名の自主レーベルを設立。キツネなど複数のレーベルからコンスタントにシングルをリリースする一方、パラ・ワンやブロック・パーティー、ファイストらのリミックスでも注目を集めていく。今年に入って発表した先行シングルの“Don't Believe The Hype”“& Down”も話題となるなか、10月5日にファースト・アルバム『Oi Oi Oi』(Boys Noize/CISCO)をリリースする予定。