AYUSE KOZUE
「制作をひとりで全部やっていることに対して、〈すごいね〉って言っていただくことがあるんですが、何しろこのスタイルだと自由が利くんですよ。自分の好き勝手やれるし、表現の幅が広くなっておもしろい。良いと思ったものと、その時々で出会えたものを大事にしながら、いい作品を作っていけたらいいなと思ってます」。
そう語るのは、昨年の春に“boyfriend”で鮮烈なデビューを飾ったキュートな才女、AYUSE KOZUE。みずからDTM(デスクトップ・ミュージック)を駆使し、作詞作曲からアレンジ、果てはプロデュースまでもこなすスタイルから生まれたダンサブルでメロディアスなサウンドは、早耳なポップ・リスナーにはもちろんのこと、クラブ・シーンでも注目視されてきた。幼い頃からダンスを習い、いつも身近にR&Bやヒップホップなどのダンス・ミュージックを感じながら育ってきたという彼女は、ある出会いを通じてみずから楽曲制作を手掛けるようになったという。
「もともとは歌手になりたいとかってそんなに思っていなくて、普通にカラオケで歌うのが好きなくらいだったんです。でも、高校に入ってから知り合いに〈KOZUEちゃん、歌ってみない?〉って誘われて、ライヴハウスで歌うようになって。それから徐々にダンスすることから音楽自体に興味がシフト・チェンジしていったんです。で、次第にライヴで歌うオリジナル曲が欲しいなと思っていた頃に、ちょうどDTMと出会って。周りに曲を作ってくれる人もいなかったから、これで作ればいいかなって思ったんです」。
〈欲しいものがないなら、自分で作っちゃえ!〉というDIY感覚で生み出された、たった数枚のデモ・トラックCDが、巡りに巡って結果的には現在のレーベルの手に届き、デビューに辿り着いたという。それから1年を経て、今回ついにリリースされたのがファースト・アルバム『A♥K』だ。クリエイティヴ・ディレクターを務めるテイ・トウワをはじめ、北欧ハウス・シーンの雄であるラスマス・フェイバー、BOSE(スチャダラパー)、Hunger(GAGLE)といった多彩なアーティストたちが参加したアルバムの制作プロセスは、いままで必然的に個人での作業が多かった彼女にとって、多くの刺激を得る機会にもなったようだ。
「ひとりで作ってると、やっぱり〈これで完成!〉って自分でゴールを決めちゃうんですよ。でもプロデューサーやMCの方たちといっしょに作っていると、どんどんゴールが広がって、膨らんでいくんです。人と出会うことによって成長していく感じがありましたね。それこそずーっとパソコンに向かい合ってても曲なんて出来ないだろうし、人との触れ合いがあって、曲に繋がっていく。そういうものが大きいんだと、このアルバムを通じて思いましたね。だからこそ、いろいろなAYUSEの表情が披露できたのかもしれない」。
弾けるエレクトロ・ポップに乗った、いつもよりヤンチャ度高めなBOSEのラップも冴える“Sundae Love”やラスマスのペンによる疾走感溢れるハウス・チューン“FOLLOW ME”、女性ラッパーのbumble beeとキュートに掛け合う“思い出すよ”、心の琴線に触れるような美しいメロディーのバラード“君の優しさ”など……出会いとヒラメキ、そして自身の信じる感覚が音のヴァラエティーに繋がって完成したであろう『A♥K』。確かに、いままで以上に彼女のシンガーとしての魅力が感じられるし、同時にトラックメイカーとしての希有な部分を感じることができる仕上がりになっているのも特筆したい点だ。シンガーとして、トラックメイカーとして、プロデューサーとして。「全部が全部切っても切り離せないし、そのすべてが揃ってないと成り立たない」とみずからのスタンスを語るその姿勢に、これからも進化/深化を止めないであろう彼女の未来を見た気がした。
PROFILE
AYUSE KOZUE
DTMを駆使してソングライティングからトラックメイクまでを手掛けるシンガー・ソングライター。ダンスをきっかけとして音楽に親しみ、高校の授業でDTMを学んだことから独力で楽曲制作を開始する。2006年4月にテイ・トウワのプロデュースによるシングル“boyfriend”でデビュー。そこから1か月おきに“Pretty Good”“君の優しさ”とシングルを連続リリースし、Giorgio Cancemiや☆Taku Takahashiといったクリエイターたちとコラボレーションを重ねていく。今年に入って、5月に“eyes to eyes”、8月に“Sundae Love”とコンスタントにシングルを発表して話題を集めるなか、このたびファースト・アルバム『A♥K』(トイズファクトリー)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2007年10月25日 18:00
更新: 2007年11月05日 14:35
ソース: 『bounce』 292号(2007/10/25)
文/aokinoko