インタビュー

トクマルシューゴ

自他共に認める〈完璧主義者〉が放つ、〈トクマル的ポップ・ミュージック〉の真髄を聴け!


  「僕のなかでポップというのは危ない感じスレスレなんです。ちょっと先に行ったら完全におかしい人が作っているもので。そこに作った人なりの人間っぽさが見えてくる。ポップと狂ったものが混ざったギリギリの感覚が好きなんです」。

 そう語るトクマルシューゴは、ノコギリから一斗缶まで、音が出るものを曲に吸収させ、耽美なポップスに昇華してみせる。電子楽器に頼らず、ほぼ一人ですべての作業を宅録で行うその姿は、上の写真に写る本人の姿そのままの〈マッド・サイエンティスト〉を連想させる。このたびリリースされたニュー・アルバム『EXIT』は、マッドさを保持しつつ、ポップさがより強化されたものだ。50種類以上の音色が注ぎ込まれながら、そのそれぞれがしなやかな強さを持ち、〈ミニマル〉と〈うねり〉の中間を明確に照らし出す。そんな彼の手腕は、海外からも注目を集めており、過去作はアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなど十数か国でリリースされている。本人はこのような状況について「まったく実感がない」と言うが、事実今回の『EXIT』に対しても、ティーンエイジ・ファンクラブのノーマン・ブレイクが〈僕が聴いたなかでも最良のレコード〉と賛辞のコメントを寄せている。

 「適当な部分まで完璧にやりたい。完璧で緻密で、自分にしか作れないものなんだけれど、どっか崩れていてダメなところがある。ローファイを完璧にしたい感じです。今回は〈自分が何をやりたいのか〉を考えすぎて、精神的にダメージを負ってしまって。逆に明るいものを作ったらどうなるんだろうって。聴いた感じは全曲明るいんですけど、僕のイメージでは全曲暗い(笑)」。

 では、彼がいま追求したいものは何なのか?

 「ただ単純に自分がどんな音楽が好きで、何が本当に聴きたい音楽かっていうシンプルなところを追求してるくらいで。あまりここまでやる奴はいないだろうとは思いますけど、やるからにはこれぐらいやらないと」。

 とはいえ、そういったものを作るためには自分を追い込む必要があるのでは?という質問をすると、彼は「そういうものが世の中には必要」と答えてくれた。〈音〉を〈音楽〉に変える魔法の使い手。ベッドルームから世界へ、楽曲から生えた羽が世界中を飛び回る様子が、『EXIT』を聴くと見えてくるようだ。

▼トクマルシューゴの作品を紹介。

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掲載: 2007年10月25日 21:00

ソース: 『bounce』 292号(2007/10/25)

文/ヤング係長