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インタビュー

JACK PENATE


〈インディー・ポップの逆襲!〉とデカデカ書かれた7月下旬のNME誌で、ケイト・ナッシュと共に表紙を飾ったムサ苦しい男をご存知だろうか。そう、彼こそがこのたび堂々のカッ飛びファースト・アルバム『Matinee』を完成させたUKの新鋭シンガー・ソングライター、ジャック・ペニャーテである。ボサボサの髪と無精髭、キラキラと潤んだ少年のような瞳を武器に、夏前からシングル・ヒットを連発中。そんなスター性ゼロの容姿でカラフルなギター・ポップを奏でる彼が、まずは挨拶代わりにお気に入りの音楽について話してくれた。

「僕は幼い頃からいろんなジャンルの音楽を聴いて育ったんだ。なかでもニック・ドレイクは特別! 彼の音楽はとても美しいよね。ソウル系だとサム・クックやレイ・チャールズが大好きだった。あとジェフ・バックリーには10代をとおしてとても大きな影響を受けたよ」。

 次から次へと繰り出される素晴らしいメロディーが、オーディエンスのハートをガッチリとキャッチ! ハウス・マーティンズやスミス、はたまたジャムやマッドネスなどが引き合いに出され、ホロウェイズらテムズ・ビート周辺からの流れも感じさせる『Matinee』だが、プロデュースを務めたのはシミアン・モバイル・ディスコの片割れであるジム・アビスというから驚きだ!

「アークティック・モンキーズやカサビアンのアルバムでも素晴らしい仕事をしていたし、アーティストの持ち味を尊重してくれる人だと感じていたんだ。そこで連絡を取ってみたところ快く応じてくれて、南ロンドンで2日間、試験的にレコーディングをした。その時の曲がアルバムに収録されている“Got My Favorite”なんだよ」。

 彼の人間性や音楽へのピュアな愛情を窺えるのが、アルバム・タイトルに掲げられた〈Matinee(マチネー)〉。英語で〈昼興行〉という意味を持つこの言葉に、いったい彼はなにを託したのだろう。

「出発点という意味合いを持つ言葉を探していて、でも大袈裟で複雑なものにはしたくなかったし、自分がうぬぼれ屋に思われるようなタイトルは避けたかったんだ。いちばんの理由としては、言葉の意味以上に響きが好きだったから。それに僕のライヴってある意味シアター的な要素もあるし、〈Matinee〉は夜の部へ向けての序章であって、子供たちも親と気軽に行けるショウというイメージがあるんだ。あと、目標に辿り着くまではまだまだ学ぶことがたくさんあるというのを自認する意味でもあるんだよ」。

 作品のコンセプトについて「特にコンセプトやテーマはないよ。ここ数年間で作った曲をひとつにまとめただけなんだ。集大成というか、一貫したコンセプトに基づいてっていうタイプのアルバムじゃない」と語る彼。リリックは〈失恋や過ちへの後悔〉〈正面から悩みに立ち向かう勇気〉などさまざまだが、しかし〈UK発の大型新人=ビッグマウス〉という昨今のおかしな風潮のなかにあって、ここまでリアルに僕たちの〈青春応援歌〉を歌い上げる人がいただろうか? 彼の自然体な生き方そのものがサウンドのコンセプトとなり、そこから生まれる恥ずかしいくらいにまっすぐな叫びに多くの若者が共鳴していることは疑う余地もない。そんな彼の微笑ましいエピソードを最後に紹介しよう。

「実は僕、まだ実家で母親と住んでいるんだ。だから夜中に作業する時は、歌の部分はボソボソと歌っているんだよ(笑)」。

 どこまでキュートなんだ、ペニャーテ君! いやいや、キャラクター偏重はノンノン! そのサウンドを聴いて胸が熱くなることは間違いないですぞ!

PROFILE

ジャック・ペニャーテ
南ロンドン出身、現在23歳のシンガー・ソングライター。11歳の頃からギターを弾きはじめ、13歳で作曲活動を開始。その後、友人同士でバンドを結成するも、大学進学をきっかけにソロに転向。2006年にインディー・レーベルのヤング・タークスからデビュー・シングル“Second, Minute Or Hour”を1000枚限定で発表。同曲がBBCラジオ1でヘヴィー・プレイされるなど徐々に知名度を上げていき、レーベル各社の争奪戦を経てXLと契約を結ぶ。2007年6月に発表したシングル“Torn On The Platform”がUKのシングル・チャートで初登場7位を記録。さらなる話題を集めるなか、このたびファースト・アルバム『Matinee』(XL/Beggars Japan)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年11月01日 22:00

ソース: 『bounce』 292号(2007/10/25)

文/白神 篤史