THE HELLO WORKS
スチャダラパー+SLY MONGOOSE+ロボ宙から成るヴェテラン揃いの新人バンド、それがTHE HELLO WORKSだ。今年の春から夏にかけての野外フェスなどにも数多く出没していたので、すでにその勇姿を目撃している人も多いと思うが、彼らが初めて出会ってからバンド結成に至るまでには実に10年ほどの月日を要している。
「きっといまの若い子だったら、一回ライヴやった時に〈じゃあ、アルバムでも作ろうよ〉ってすぐに一枚ぐらい作っちゃうかもしれないけど、そんな気さくにコラボコラボ言えない世代でもあり(笑)。ハナちゃん(笹沼位吉)なんて、10年ぐらい付き合ってるのにね」(BOSE)。
しかし、こだわりと主張ありまくりな、そして頑固者で変わり者揃いの10人が重い腰を上げ、スクラムを組んでからは早かった。ライヴと並行してスタジオに入り、セッションから出てきたアイデアを全員が顔を突き合わせて膨らませていき……。
「SLY MONGOOSEが思うイメージとスチャダラやロボ宙が思うイメージとの合致点を探って、デモの段階で30曲ぐらい出来てね。バンドでセッションして、みんなが引っ掛かったところを詰めていくんだけど、ビックリするぐらい反応しない曲もあってね。サッカーの話とか始まってるんですよ。するとバンドはゆっくりとフェイドアウトして次の曲に行く(笑)」(笹沼)。
「そんなこたぁねぇだろ(笑)! でも結局、ソソられるかどうかの話で。バンドがセッションみたいなことをやってると、すげぇカッコイイ瞬間とかあるから、〈もっとそこだけやって!〉みたいな。そういう時間がおもしろかったんだよね」(BOSE)。
「何から何までお互いのレコーディングの進め方が違うんでね。バンドは楽器も多いから進行が不自由な部分もあって大変なんだけど、やり始めたらテンションもすごいし、音もとにかくブ厚い。それに彼らはお互いに共通認識があるぶん、余計なこともしないっていうか。〈皆まで言うな〉みたいな感じですよね」(SHINCO)。
そうして〈THE HELLO WORKS〉という名のもとに完成した曲たちは、彼らが通過してきたさまざまなダンス・ミュージックを基軸に置きながらも、乾いたエレキ・ギターの音色がギュインギュインと牙を剥き、さすらいのトランペットがむせび泣く、汗と埃にまみれた、しかしどこかロマンティックな香りが漂ってくるサウンドだ。
「ホントはもっと4つ打ちっぽくなるかとも思ったんだけどね」(SHINCO)。
「バンド名が違ってたら、もしかしたらそっちに行ったかもしれない。4つ打ちで、生で、オールド・スクールっぽいラップで、みたいな。結局は全然違うもんになってるし。怖いねぇ、バンド名(笑)」(BOSE)。
「曲から歌詞のイメージを作っていくんだけど、なんか〈砂漠にディスコ〉みたいな感じの曲が出来てきたりして。〈マッドマックス2〉みたいな、すごい埃っぽい感じの(笑)。〈そんな要素、俺の中にあるかなぁ?〉って(笑)」(ANI)。
そんなハードボイルドな音と拮抗するかのように、リリックもシリアス。かつてはヒマの過ごし方についてあーだこーだとダベリングしてたスチャダラパーが、だ。それがいまや長引く不況を嘆き、あきらめムードが蔓延する時代や社会を憂い、くだらないモノにツバを吐いて──けれどもじっと手を見つめては、〈結局はせっせと働くしかねぇだろ?〉と、重くなった足をまた一歩踏み出す。
「確かに、あんなヒマだヒマだ言ってたのにね。でも、それを〈経て〉のいまだから」(ANI)。
「そうそう。こんなに働かなかった俺らが言ってるんだから、〈よっぽどヤバいぞ、みんな!〉っていうね」(BOSE)。
いまの日本に出るべくして出てきた、最新型のブルース──誤解を承知で、彼らの音楽をそう評したい。
PROFILE
THE HELLO WORKS
スチャダラパーのBOSE(MC)、ANI(MC)、SHINCO(DJ)、SLY MONGOOSEの笹沼位吉(ベース)、松田浩二(キーボード)、KUNI(トランペット)、武村国蔵(ドラムス)、塚本功(ギター)、そしてロボ宙(MC)から成る総勢10名の大所帯バンド。かねてより互いに親交があり、SLY MONGOOSEの2006年作『TIP OF THE TONGUE STATE』に収録されている“Defenseless City”にスチャダラパーとロボ宙が参加したことをきっかけに、2007年に結成。今年2月に代官山UNITで行われた〈ザンジバルナイト Vol.2〉で初ライヴを敢行し、夏は〈RISING SUN〉〈Sunset〉などに出演して話題を集める。そして12月5日にファースト・アルバム『PAYDAY』(tearbridge)をリリースした。