インタビュー

WE SHOT THE MOON


  ウェイキング・アッシュランドの解散! 新バンド、ウィー・ショット・ザ・ムーンの誕生!! そして、復活を高らかに宣言したファースト・アルバム『Fear And Love』の発表!!!――と感嘆符付きのトピック3連打によって、改めてファンの気持ちに訴えかけた(そう、憎いほどに!)ジョナサン・ジョーンズ。ウェイキング時代に“I Am For You”のたった1曲で、〈エモ〉と名付けられたモダン・ロック・シーンの頂点を極めたこの稀代のメロディーメイカーにとって、2007年はまさに激動の1年だった。

 「バンド解散の理由は他のメンバーとの方向性の違いさ。ウェイキングの2作目『The Well』と今回の『Fear And Love』を聴き比べてみれば、それはわかってもらえると思うよ」。

 ライフワークと考えていたバンドを失い、失意の日々を送っていたジョナサンがふたたびバンドを始めようと思ったきっかけが、〈エモ世代のビーチ・ボーイズ〉と評されて人気急上昇中のロック・バンド、シャーウッドのダン・コッチから受けた〈いっしょに音楽を作ろう〉という電話だった。

 「ウェイキングがシャーウッドとツアーして以来、〈そのうちいっしょに何かやりたいね〉と話し合ってはいたんだけど、俺が落ち込んでいると聞いて、ダンは〈何とかしてやらなきゃ〉と思ったらしいよ(苦笑)。今作の収録曲はね、『The Well』のレコーディングの時に作ったもので、でも当時のメンバーには聴かせられなかった曲なんだよ。なぜって!? 笑われるんじゃないかと恐れていたんだ。個人的な思いを吐露した歌詞にしてもそうだけど、その頃、ウェイキングの他のメンバーの間では〈ピアノなんて!〉っていう雰囲気があったから」。

 ダンの指揮のもとに出来上がったアルバムは、〈たとえどんなことがあっても歌い続ける〉と力強く誓ったオープニング・ナンバー“Hope”の一節を取って、『Fear And Love』と命名された。

 ファルセットを交え、滑らかなメロディーを歌い上げるジョナサンのエモーショナルな歌声。リスナーの前に広がる景色を、サビでガラリと変えてしまうドラマティックなソングライティング――そう、ウェイキングの初作『Composure』を思わせる楽曲が、ここではよりストレートなギター・ロックとして奏でられている。それは安易な例えではあるけれど、〈ジョナサンとシャーウッドの共演〉という表現がやはり相応しいのだろう。

 「今回はレコーディングを楽しもうと思ってたから細かいところはダンに任せてしまったけど、俺が求めているサウンドにはかなり近いよ」。

 “I Am For You”を含む『Composure』を誇りに思い、その延長上でキャッチーな歌を追求していきたいと考えていたジョナサンに対し、ウェイキングのメンバーは歌以上にジャム・バンド風のアンサンブルに挑戦したいと思うようになった――バンドを解散に追い込んだ〈方向性の違い〉とは、つまりそういうことだったのだろう。大人になったと取るか、背伸びしていると取るかという捉え方の違いはあるにせよ、確かにメンバーの挑戦が反映された『The Well』も良い作品だった。しかし、ジョナサン以外の3人は、『Composure』で作り上げた誰の手垢もついていない自分たちの世代の表現に、なぜ誇りを持てなかったのか?――今回の『Love And Fear』には、ジョナサンのそんな気持ちも込められているように思えてならない。

 ともあれ、ジョナサンはふたたび歌いはじめた。そこには恐れも迷いもない。あるのは、希望と自信だけだ。

 「次は、もっと凄いものを作れるはずさ。これからの5年間を見ててくれよ!」。

PROFILE

ウィー・ショット・ザ・ムーン
元ウェイキング・アッシュランドのジョナサン・ジョーンズ(ヴォーカル/キーボード)と、シャーウッドのダン・コッチ(ベース)、ジョー・グリーネッツ(ドラムス)から成る3人組。2007年7月、ウェイキングの解散によって失意の中にいたジョナサンに、ダンが楽曲制作の話を持ち掛けたことをきっかけに結成。すぐにレコーディングを開始し、8月にファースト・シングル“The Polar Bear And Cougar”を発表。その直後にインディー・レーベルのミリティアと契約を結び、9月頃から地元のサンディエゴを中心に精力的なライヴ活動を行うようになる。このたびファースト・アルバム『Fear And Love』(The Militia/FABTONE)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年12月27日 23:00

ソース: 『bounce』 294号(2007/12/25)

文/山口 智男