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インタビュー

LANTERN PARADE


  2004年に曽我部恵一が主宰するレーベル、ROSEからアルバム『LANTERN PARADE』でデビューした清水民尋のソロ・ユニット、LANTERN PARADE。サンプリングのメロウなフレーズが延々とループする簡素なトラックと、ポエトリー・リーディングとメロディーの中間をふらふらと彷徨う不安定な歌――宅録特有の閉塞感を持ちながら、彼の作り出す曲は〈言葉と音〉の新たな関係を手探りで見つけ出そうとしているように感じた。ヒップホップでもなければ、歌ものでもない。レコード店のどこの棚に置いても良いようであり、どこに置いてもしっくりこない彼の存在は、掴みどころがなく、どこか不気味な印象すら残した。実際に会って話をしてみても、彼の服装や態度からアーティスト然とした振る舞いはまったく感じられない。彼自身、日本の音楽シーンにおいて、どんな立ち位置にいたいと思っているのだろうか?

 「僕の音楽は、プライヴェートとミュージシャンのオン/オフがなくて、日常生活がそのまんま音楽になってるんですよね。ジャンルを意識して作っていないというか。服装も特徴的じゃないから、ますますカテゴライズしにくいかもしれないけど、そういう曖昧な立ち位置も嫌いじゃないなって(笑)。ただ、これまで(音楽で)誰もやっていないことをしたいというだけです」。

 これまでにリリースされたアルバムは、ミニ・アルバムも含めると6枚。1000枚限定でリリースされた前作『絶賛舌戦中』では、ユーモアを交えた攻撃的なラップで社会に対する違和感を吐露している。「特に義務感もカタルシスも感じずに」作られた、それらすべてが〈清水民尋のそのまんまな姿〉なのだ。このたび届けられたニュー・アルバム『とぎすまそう』では、これまでと同様、ザラついた音質のジャジーなフレーズが印象的ではあるが、ディスコ~ハウス寄りのアレンジが端々で窺える。さらに、収録された全20曲にタイトルはなく、〈架空のミックスCD〉というコンセプトが掲げられた作品となっているのだ。

 「コンセプトは、たまたま出来上がった数曲を聴いたらそっち側の曲が多かったからで、後付けです。各曲の尺も短いし、流れも繋がっているような気がしたから。そんなに計算高い緻密なものはできないです(笑)」。

 〈完璧に作り上げたもの〉ではなく断片的な作品であることを望み、サンプリングのネタ選びはすべて直感で、〈いびつなものを作りたい〉と語る。確かに本作に入っているビートの種類も、サンプリングされている上モノの音にも、全体的にならされた感じはない。歌詞カードを読みながらCDを聴いているリスナーを俯瞰するような視点は相変わらず。さらに生々しい描写が増えているようにすら思える。アルバムを通して聴いた後には、三上寛や根本敬の作品に触れた後のような、生々しいヌメリが脳にこびりつく。

 「自分が作るものには汚さとか、荒々しさが欲しいんですよ。パンクでもファンクでもレゲエでも、汚いものの魅力っていうのがありますよね。スライ(&ザ・ファミリー・ストーン)の〈暴動〉とか。あとは、貧乏人でも音楽ができるってことを伝えたい気持ちはありますね」。

 自分の弱い部分をさらけ出すように音楽を作り出す彼だが、作品からはまったくと言って良いほど悲壮感が見えない。その音からは安易なナルシズムを嫌い、自分であろうとする強いパーソナリティーが見えてはこないだろうか。

 「昔のブルースでも童謡でも、欲求や衝動が起きたから歌ったんじゃないかなって。そこに近付きたいんです。根源的でありたいっていうか。音楽をやっている以上、結局は誰かに聴いて楽しんでもらったり、誰かと繋がったりしたいんですけど、意識したくはないですね」。

PROFILE

LANTERN PARADE
愛媛県出身の清水民尋(ヴォーカル、サンプラー)によるソロ・ユニット。ハードコア・パンク・バンドで活動したのち、現在の宅録スタイルへとシフトしてデモテープ作りを開始する。そのデモが曽我部恵一の耳に留まり、2004年にアルバム『LANTERN PARADE』でデビュー。2005年にはシングル“回送列車が行く”“甲州街道はもう夏なのさ”、セカンド・アルバム『LANTERN PARADE』を、2006年にはミニ・アルバム『ランタンパレードの激情』、フル・アルバム『太陽が胸をえぐる』、ミニ・アルバム『清水君からの手紙』の3作をリリース。2007年に入り、9月に発表した『絶賛舌戦中』が好評を博すなか、このたびニュー・アルバム『とぎすまそう』(ROSE)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年01月10日 20:00

ソース: 『bounce』 294号(2007/12/25)

文/ヤング係長