インタビュー

the ARROWS

笑顔の裏にある孤独や不安――誰もが抱える内なる感情を明るく照らした新作で、彼らが作る〈スタンダード〉を垣間見た!


  the ARROWSと言えば、クラブ・ミュージックのダンサブルな要素をロックに持ち込み、明快な曲調でストレートな恋の歌を歌う良質なダンス・ポップ・バンド。そういう認識は間違いじゃない。が、楽しさの背中にはいつだって悲しみが貼り付いているし、笑顔の裏には人に言えない孤独感もあるのだ。ニュー・アルバム『GUIDANCE FOR LOVERS』で坂井竜二(ヴォーカル:以下同)が描いたのは、人間の多面性であり、〈自分はなぜ音楽を作るのか?〉という根源的な問いへの答えだった。

 「シングルはノリの良いものばかり選んで出したので、自分たちで狙ったこととはいえ、イメージが固定されるのがストレスだったんです。〈底抜けに明るい奴ら〉というイメージを付けて、なぜそうしているのか?という、その裏側にあるやり切れなさや不安みたいな部分を出さないと、チャラチャラしたままで終わっちゃう。結果的に、それがアルバムのコンセプトになりました」。

 “月光の街”という曲がある。これは誰が何と言おうと、彼らの現在の最高到達点であり、坂井の一世一代の魂の叫びである。延々と続く〈君にね、会いたいんだ〉というリフレインが、どんな美麗な言葉よりも深く強く、聴き手の心に揺さぶりをかける。

 「僕たちはそんなに野心もなく、ずっとゆっくりやってきて、甘えてる部分もあったんです。だからメジャーになってインタヴューをしてもらっても、いい歳して全然答えが固まってない。そんな時にマネージャーからメールが来て、〈なぜ竜二くんが女の子を好きになるのか、なぜ踊るのが好きなのか、なぜ歌うのか、しっかり突き詰めてほしい〉って。〈ポップスは勉強すれば誰でもできるけど、ロックには生まれ持った才能が必要で、竜二くんにはそれがあると思う〉って言ってくれた。それで、自問を繰り返せば答えが出るはずだと、いま自分が訊かれたら困ることを全部書き出したんです。それがこの曲の前半で、スタジオに持って行ってバンドと合わせた時、だんだんスピードが上がってきたなかで出た言葉が〈君にね、会いたいんだ〉だった。僕はいつも誰かに会いたくて手を伸ばしていたんですね。音楽は、コミュニケーションの最初の手段だった。それで〈答えはコレだ〉と」。

 “月光の街”が重い核となることで、一曲ごとのヴァリエーションがより強調された。ラテンのリズムが楽しい“渚でKISS”、得意の4つ打ちで攻める“マストピープル”、強烈なインストのディスコ・ファンク“DRAGON BEAT”、そしてフィッシュマンズ的な宇宙空間サウンドを表現した“六月は眩暈”など――どの曲も個性に溢れ、明るさの内側に深い切なさを湛えて脈打っている。

 「暗い曲を明るいメロディーとリズムの曲調に変えるのと、辛いことがあってもこれまで生きてきたってことが似てる気がして。僕らを取り巻くはっきりしない曖昧な部分を歌詞とメロディーに変えてやることが安心感を生むと思うんです。僕がやりたいのはそれなんです」。

 究極の目標は、あらゆる世代が無条件に楽しめる「スタンダードを作ること」だという。『GUIDANCE FOR LOVERS』は、その夢への着実な一歩だ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年01月10日 20:00

ソース: 『bounce』 294号(2007/12/25)

文/宮本 英夫

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