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インタビュー

tick

バンド存続の危機を乗り越え、新たに手に入れた〈いまのtick〉の姿。切ないほどまっすぐな音と言葉が日本中に羽ばたく!


  とてもメロディアスで、しかも胸の奥を刺すような歌――ファースト・アルバム『想~omou~』をリリースするtick(ティック)は、金沢在住のトリオ・バンドである。歌モノとしての叙情性としなやかなファンクネスが同居するサウンドが特徴的だ。

 「口ずさめるか、鼻歌で歌えるかどうか、そういったところが大きな要素ですね。洋楽でも日本で受け入れられやすいものって覚えやすいメロディーじゃないですか。それは大事だなって」(Donny、キーボード/コーラス)。

 「リズムとかも好きなんですけど、やっぱり歌をメインに出したいなというのは考えてます。僕が入ってからしばらくは、もうちょっとコアなことをやってたんですけどね」(no-boo、ヴォーカル/ギター)。

 そう、tickは98年結成と、決して短くはない歴史を持つバンド。最初期はラウド/ミクスチャー・ロック、その後はヒップホップと、かつてはかなりハードコアな音楽性を持ち、MC Reigo5という才能がこのバンドを引っ張っていた。しかし2003年、彼の突然の死によって、tickは大きな曲がり角に差し掛かる。

 「Reigo5が他界して、ホントにこれでおしまいかなって思ったんですけど、たくさんの方々にものすごく熱い応援を受けたんです。そこで〈この火をこのまま消したくない、もう1回やろう!〉って思えた。いまからしてみれば、よく続けてきたなあって思いしかないんですけどね」(Paul、ベース/コーラス)。

 「僕は最初、ゲスト・ミュージシャンのような形でtickにいて、Reigo5の曲を知ってもらいたいという気持ちでやっていました。でも半年ぐらいやって、いろんな人に〈いまのtick〉もあるべきじゃないかっていう意見をもらえたんです。そこで〈じゃあいまのtickも魅力的でありたいな〉って思ったんですね」(no-boo)。

 RIZEや10-FEET、韻シストといった面々からも後押しを受けながら、活動を再スタート。やがてDonnyが参加し、現編成になる過程で、音楽もオープンなものに変容していった。しかしReigo5への思いは、彼が生前に残した“言葉の意図”“Rain”といった楽曲を今作で再演していることからも窺える。

 その一方で見えてくるいまの3人による歌の世界は、ちょっとホロ苦さを噛み締めるようなものだ。辛いこと、悲しいことをくぐり抜け、明日に向かっていこう――各曲で垣間見れるこのストーリー性は、彼らの正直な心境のようである。

 「繕った言葉より、正直であれば不器用でも伝わると思うんです。そういうのは大事にしていきたいし、そこで何か感じてもらえれば嬉しいですね」(Paul)。

 このウソがつけない性格を彼らは〈北陸気質〉と呼ぶ。格好良さよりも正直さ、誠実さ。だからこそ刺さる歌心。北陸から吹いてきたこの純朴な風が日本全国に広がっていくことを願う。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年01月24日 21:00

ソース: 『bounce』 294号(2007/12/25)

文/青木 優