OLD MAN RIVER
「アルバムを最初から最後まで聴くと、一日の始まりから終わりみたいになっているんだ。“Sunshine”で目覚め、ラストの“All The Things”がララバイのような役割を果たしている。一日を長い旅に見立てている曲なのさ。〈君が探しているものすべては、すでに君が手にしているものなんだ。だからもう心配しないでお休み〉っていう歌だからね」。
オールド・マン・リヴァーことオハド・レインは、ファースト・アルバム『Good Morning』についてこのように話してくれた。2008年には20代最後の年を迎える彼だが、驚くほど落ち着きがあり、思慮深く、寛容で、世の中や人生を達観しているような風情を漂わせている。それでいてユーモアや愛嬌もあるのだから、〈できすぎ〉ってものだろう。そんな彼のキャラクターは、独特なバックグラウンドにも起因しているようだ。
オーストラリアはシドニーに生まれたものの、育ったのは両親の母国であるイスラエル。東西の文化や観念を同時に享受しながら、「人生でもっとも辛い経験だったけど、本当の〈自由〉とは何か、また自分にはその〈自由〉があるとわかったのは良かった」という兵役義務も果たしている。そんな青春時代を送った後、21歳で〈世界を旅して見聞を広めよ〉という内なる声に従い、世界放浪の旅に出た。旅はおよそ2年間続き、生まれ故郷のシドニーで終わりを迎える。
「一旦はシドニーに戻って、そこからまた旅を続けるつもりだった。でも、久しぶりのシドニーにすごく興味を惹かれてね。だからこのままいてみようかなって思ったのさ。いまから5年ほど前のことだけど、振り返ればおもしろいことに、当時のシドニーでは急速にいろんなことが動きはじめていたんだ」。
〈動きはじめたいろんなこと〉に逆らわないのもまた、彼の生き方だ。
「川のように生きたい、というか実際そうなってるよね。常に変わり続け、旅をし続け、時には激しい流れになり、時には緩やかになりながら、ずっとそこにあり続ける」。
そう、そんなふうに川に惹かれる彼だからこそ、みずからのミュージシャン名をオールド・マン・リヴァーと冠したのだ。この命名の由来に関してより詳しく知りたい方には、ミュージカル映画「ショウボート」を観て、ヘルマン・ヘッセの著書「シッダールタ」を読むことをお薦めしておこう。ともあれ、幼い頃から歳の離れた兄や両親の影響でさまざまな音楽に親しみ、8歳でピンク・フロイドに心酔した早熟なオハド少年の〈ミュ-ジシャンになりたい〉という漠然とした夢は、シドニーで形を成していった。
「ミュージシャンとは、繊細な耳とアンテナを持っている人のことだと思う。そして誰もがミュージシャンになれる可能性を秘めていると思う。音楽はどこかで音楽を勉強した人だけに与えられた特権じゃない。でも音楽に人生を捧げて貫きとおせる人は、ちょっと〈普通じゃない人〉でなければいけないかもね。音楽が仕事になると要求されることもすごく増えるから、より執着しなければいけなくなる」。
そのように、どこか楽しげな口調で語るオハドが今回の『Good Morning』で自分に課したテーマは、「聴いた人の気分が明るくなるアルバム作り」とのこと。先行シングル“La”はいまも彼が続けている、心身に障害を持つ子供たちを対象にしたワークショップで生まれた曲なのだが、まさにハッピー・オーラ全開、オールド・マン・リヴァーの面目躍如たる逸品だ。
「僕は音楽が世界を変えられると本当に信じているし、より良い世界になることも信じている」と断言する彼。以前NYのセントラルパークにあるストロベリー・フィールズでバスキングした際、目の前に現れたヨーコ・オノが親指を立てながら〈Great!!〉と言ったという話も、単なる偶然ではないはずだ。
PROFILE
オールド・マン・リヴァー
本名オハド・レイン。79年生まれ、オーストラリアはシドニー出身のシンガー・ソングライター。幼少の頃から21歳までの期間を、両親の故郷であるイスラエルで過ごす。その後、インドや東京、NYなど世界中を転々としながらストリート・ライヴを敢行。2002年にシドニーに戻り、スリーピー・ジャクソンら地元の音楽仲間からのサポートを受けて本格的な作曲活動を開始。同時期に、1880年代のアメリカを舞台にしたミュージカル「ショウボート」の劇中歌“Old Man River”にインスパイアされて改名する。2007年3月に本国でファースト・アルバム『Good Morning』(Wu Well/Sony BMG Australia/BMG JAPAN)を発表。このたびその日本盤がリリースされたばかり。