インタビュー

キセル

リスナーを非日常の世界へトリップさせる音楽――そんな魔法のサウンドが実現したニュー・アルバムの中身とは?


  沈んだ太陽が地平線から柔らかな残光を放つ、朧なひととき。晴天なら日に一度は訪れる、昼とも夜ともつかない〈狭間〉の時間は幻想的な時間帯だ。ありふれた日常のなかで一歩踏み出し、ふと振り返ると、そこは日常とよく似た非日常だった――。眼前に靄が広がるようなダビーな質感、不可思議な言葉が戯れるファンタスティックな歌、繊細なハーモニー。辻村豪文(ヴォーカル/ギター)と友晴(ベース/ヴォーカル)の兄弟が奏でるサウンドは、ノスタルジアとサイケデリアが交錯する世界へと私たちを連れ出す。

 「2年ぐらい前に『magic hour』っていうアルバム・タイトルだけは考えていて、今回はそれをキーワードにして曲を書きました。日没後しばらくの間、まだちょっと明るい時間帯ってすごくきれいに映像が撮れるらしいんですが、その時間帯を映画用語で〈マジック・アワー〉っていうんです。それを音楽でできたらと。音楽で風景を見せたり、非日常的な場所に連れて行ったり、そういうトリップ感ってキセルのテーマみたいなところがあって、それをいま自分らができる技で掘り下げられたらな、と」(豪文)。

 エンジニアは旧知の内田直之、ゲストにエマーソン北村などが参加した約2年半ぶりのニュー・アルバム『magic hour』。兄いわく「フォーク的だけどトリップ感もある」という、高田渡を思わせる言葉のサイケ感がたまらない “君の犬”、「〈和〉のオリジナリティーみたいなものが出せた」という歌詞やコーラスワークなどに民話~民謡風のジャポニズムを感じさせる“枯れ木に花”などの新機軸と、〈音楽でいかにリスナーの意識を別の時間軸へ連れ出すか〉という、〈キセルのテーマ〉への取り組みが、美しく結実している。

 「全部の音をわりとはっきり聴こえるように作ったんです。生々しさもあるけど、ちょっと夢っぽい歌になりましたね」(豪文)。

 「歌詞も前よりわかりやすい。だけど変な言葉もちょっと入ってるから、逆にそれが耳についてすごく引っ張られるんですよね。〈種をまく人〉(“枯れ木に花”の一節)とか(笑)。でも、そういう言葉で(気持ちが)持っていかれるかもしれない」(友晴)。

「想像を広げてくれる、隙間がある曲のほうが楽しいですよね」(豪文)。

 輪郭にまろみのある音を聴いていると、いつの間にかぽっかり空いた隙間に入っている。〈想像〉というその隙間こそが〈マジック・アワー〉の入口なのだ。

▼キセルの作品を紹介。

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掲載: 2008年01月31日 21:00

ソース: 『bounce』 295号(2008/1/25)

文/土田 真弓