Rickie-G

「8時59分っていうのは、僕の生まれた時間。9時ちょうどでいいじゃんって思うけど、母子手帳にそう書いてあって（笑）」。

　ざらっとした質感の、しかし大らかに伸びていくソウルフルな歌声が、レゲエ・シーンのみならずジャンルを越えて幅広くリスナーの心を捉えているシンガー・ソングライター、Rickie-G。昨年7月にシングル“逃飛行”でメジャー・デビューした彼が、このたび初のフル・アルバム『am 08:59』を完成させた。

「タイトルの意味は……人間の一生を24時間に置き換えて、生まれた瞬間が0時だとしたら、いまの自分はちょうど9時ぐらいのところにいるのかなって思って。自分自身にとっても8時59分っていうのがスタート地点だし、なんとなく運命的な数字だなって感じてて、それで『am 08:59』というタイトルにしたんです」。

　まあ音楽ライターや雑誌編集者のように浮き草みたいな稼業には当てはまらないかもしれないが、多くの人たちにとって朝の9時ぐらいの時間というのは、出勤して会社の朝礼があったりなど、社会生活がスタートする時間だろう。彼にとってもこの『am 08:59』が、ベッドから起きて朝ご飯を食べて歯を磨いて身支度をして、いよいよアーティストとしてみずからの表現を世に問うべく、最初の一歩を踏み出そうとしている――その瞬間をありのままに収めた作品と言える。

　さて、いわゆるレゲエ・シンガーとして認識されているRickie-Gだが、先に書いたように彼をその枠の中だけで語ることはできない。例えば本作1曲目に収録されている“Everybody Needs Love and Harmony”の歌からはサム・クックの影響が垣間見られるなど、単発のシングルだけでは表現しきれなかったさまざまな音楽的バックグランドが窺える。

「歌っていうのは、決して発声だけじゃなくて、楽曲も含めて歌なんですよね。〈言葉〉とか〈間〉とか、そこに綴られているストーリーや込められた気持ちも含めて歌なんだっていうのが、最近やっとわかってきた気がする」。

　本作にはシングルでリリースされたトラックもアルバム・ヴァージョンで再録され、YUKKY（HOME GROWN）やWADADA、PJらによるバンド・セットのナンバー、さらに西内徹（Reggae Disco Rockers）、ミヤタマコトら多くのミュージシャンが参加。それによって変化した制作方法も、彼の歌に影響を与えているようだ。

「誰かが加われば、何でも小さい社会が生まれるんですよね。音数でケンカしないようにとか、〈和〉っていうものを考える。マイペースなだけじゃなく、その人たちに溶け込むようにするには自分がどうすればいいんだろうっていうのをちょっと考えたり。それは、バンドと自分とのハーモニーなんだなって。いままでは一人でやってて良かったけど、それが誰かといっしょにできるようになってからは、歩調というか、フロウを合わせることが必要で。それは気持ちにも繋がってくるし、歌にも繋がってくる。耳で聞いて吸収するものがあって、そこに自分が溶け込もうと思った瞬間に歌が生まれてくるんだろうから」。

　そんな思いをさらに押し進め、メッセージとして昇華させたのが、CHOZEN LEE（FIRE BALL）をフィーチャーした“No Peace No Life”だろう。

「平和っていうのは何かって考えた時、それは決まったものじゃなくて、どんな状況にあってもそれぞれが毎日笑顔で暮らすことなんじゃないかって。レゲエはレベル（反抗する）な音楽っていう一面もある。リリックのなかにもある、〈争い〉じゃなくて〈闘い〉という言葉は、幸せになるために憎しみじゃない何かを表現しろという意味。結果はわからないけど、それぞれが主張し、闘うっていうのは大事だと思う。そのためには自分の歩く速さや、自分にとって良い環境、幸せで気持ち良い感覚を忘れず、ゆっくり自分の役割を探して生きていけば、それがいずれ平和に繋がる……そんな気がするんです」。

PROFILE

Rickie-G
神奈川県出身のシンガー・ソングライター。15歳からストリートで弾き語りを始め、デモテープをきっかけとして2005年にHASE-Tプロデュースのコンピ『DANCEHALL PREMIER presents REGGAE MILLION』へ参加。以降、数々のコンピ参加や、YA-KYIMやMISS MONDAYらのアルバムへの客演を通じて注目を集めていく。2006年11月にファースト・ミニ・アルバム『Life Is Wonderful』を発表。2007年7月にはメジャー・デビュー・シングル“逃飛行”をリリースし、並行して〈サマソニ〉ほか多くの夏フェスに出演する。10月にはセカンド・シングル“ラブソウル”を発表。このたび2月27日にファースト・フル・アルバム『am 08:59』（RIDDIM ZONE）をリリースする。