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インタビュー

anonymass

ボーダレスなサウンドを携えて気ままな音楽旅行を続けてきた音楽職人集団が、今度は〈イエロー・マジック〉を手に入れていま新たな地平へと向かう!


  作曲からアレンジまで何でも手掛けるユーフォニアム奏者の権藤知彦と、こちらもマルチに何でもこなすキーボーディストの山本哲也が中心になって結成されたanonymass。現在はチェロ奏者の徳澤青弦とヴォーカリストの神田智子を加えて4人編成で活動する彼らの最新作は、YMOのカヴァー集だ。題して『anonymoss』。思えば今年はYMO結成30周年。権藤はHASYMOの編曲や、SKETCH SHOW、高橋幸宏のサポートを務めてきたことから、言ってみれば本作は〈チルドレン〉から〈レジェンド〉に捧げる誕生日祝い。とはいえ相手が相手だけに、なかなか一筋縄ではいかなかったようだ。

「あまりにも聴きすぎてきたから、オリジナルの呪縛から逃れるのが大変で(笑)。どうやってアレンジしようかっていうのは、ずいぶん悩みましたね。最初の段階のアレンジは、呪縛が少ない2人(徳澤、神田)に任せちゃおうかとか」(山本哲也)。

「選曲から白熱したよね。思い出がいっぱいあるから絞れない。“君に、胸キュン。”さえできればいい、っていう意見もあったけど(笑)。とりあえず4人でできそうな曲を選んでいった」(権藤知彦)。 

 そんな本作の特徴のひとつは、4人の演奏を核にしながらも、高田漣、鈴木正人、伊藤ゴローなど、いつになく大勢のゲストを迎えていることだろう。とりわけドラマーに関しては、ASA-CHANG、鈴木惣一朗、山口ともなど、曲ごとにプレイヤーを替えているのもおもしろい。

「僕らはウワモノ楽器ばかりでリズム隊がいないんです。だからリズムをトラックで作っていくか、サポートを呼ぶかを作品ごとに選んでいて。今回は贅沢に、曲ごとのイメージで、お願いしたいアーティストを選ばせてもらいました」(山本)。

 曲によって完成するまでのプロセスは違うようだが、ミュージシャンが一堂に集まってセッションをした“Nice Age”や“君に、胸キュン。”あたりはアルバム前半のハイライト。生楽器のアンサンブルが生み出すグルーヴと神田のしなやかな歌声が、名曲に新しい息吹を与えている。その一方で、完成するまでに随分悩んだという“Behind The Mask”や、初期の段階から大きく変化したという“Cue”も、さりげなくも緻密に練られたアレンジが光っており、生楽器を中心としながら、ほのかに電子音をミックスさせるというanonymassならではの仕上がりとなっている。そのバランス感、エディット技は絶妙だ。

「そのへんは重要ですね、あまり口にはしてないけど。演奏したのを一回録音して、バラバラにして再構成する。録ったものを聴くことで、何を重ねるとおもしろいかイメージが膨らむことが多いんです」(権藤)。

「だから僕たちは、セッションが中心のようでいてジャム・バンドじゃないというか。今回でいえば“See-Through”なんて、かなり作り込んでる。バンドでできそうな感じなのに(笑)」(山本)。

 ちなみに、カヴァーすることで気付いた原曲の魅力について訊ねると、「テクノ・ポップのアレンジではなくても、十分成り立つ楽曲の完成度」と答えてくれた2人。本作はそんな原曲の良さをいまに伝えつつも、そのユニークな解釈を通じて、YMOとanonymassとの〈以心電信〉ぶりが伝わる逸品だ。〈お三方〉が絶賛しているのもよくわかる。そんなわけで、最後に無理矢理、anonymassのメンバーをYMOに例えてもらうと……。

「神田は矢野(顕子)さんとして(笑)、青弦は教授の後輩なんで、教授。僕が幸宏さんで、山本が細野さんかな。いちばん音楽について詳しいし、いちばん年上なんで」(権藤)。

「お前とは数か月しか変わらないだろ(笑)」(山本)。

▼YMOの作品を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年03月13日 23:00

ソース: 『bounce』 296号(2008/2/25)

文/村尾 泰郎