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インタビュー

CHERI DENNIS


  「ここに辿り着くまで7年もかかったけど、どんなことがあってもレーベルから離れないって決めていたわ。私はレーベルに忠誠を尽くしてきたけど、7年も私をドロップしなかったレーベル側も凄く忠誠心があると思うの。そもそも、出入りの激しい業界で良い関係をこんなに長く保っているのよ。私とバッド・ボーイとの絆の強さはそんなところによく表れていると思うわ」。

 本当に、ちょっと気の毒になるぐらいに長かった。バッド・ボーイとの契約直後に録られた事実上のソロ・デビュー曲“So Complete”から7年、ジミー・コージエの紹介で実現したメイス『Double Up』での初レコーディングから数えたら実に9年、プリンセス・オブ・バッド・ボーイ=シェリ・デニスがようやくアルバム・デビューに漕ぎ着けた。先行き不透明な状況が何年も続いたのに、よくぞ心が折れなかったものだ。

 「“So Complete”以降は3年もリリースがなかったし、もちろん焦りはあったわ。周りの新しいシンガーがどんどんデビューしていくんだからね。でも、いまにして思えば、神様が私のためのプランを用意してくれていたってことじゃないかしら? 私はビヨンセみたいになりたいわけじゃないし、アシャンティのキャリアが欲しいわけでもない。シェリ・デニスとして成功したいの。だから辛抱するべき時は辛抱しないとね」。

 〈プリンセス・オブ・バッド・ボーイ〉なる華やかな称号とは対照的に不遇のキャリアを歩んでいたシェリだったが、2006年にライアン・レスリーが手掛けた傑作シングル“I Love You”がスマッシュ・ヒットを記録したことで事態は一気に好転。折からのバッド・ボーイの快進撃も追い風となって、ついに念願のファースト・アルバム『In And Out Of Love』のリリースが決定した。

 「アルバムの制作は契約してからすぐに始めて、去年やっと完成したの。だからここにはちょっと古い曲も入っているけど、できるだけ時代を感じさせない曲をチョイスしてみたつもり。とにかく〈クラシック・レコード〉という一点にこだわったわ」。

 アルバムの制作陣はマリオ・ワイナンズをはじめとするヒットメンのメンバーの他、ティンバランドやロドニー・ジャーキンス、エリック・ハドソンなど。また、先行シングルのエレクトロ・ダンサー“Portrait Of Love”ではソウルディガズがプロデュースを務めている。

 「私はプリンスの大ファンで、ヴァニティ6みたいな80'sサウンドが大好きなの。最近の曲で言うとディディの“Last Night”とかブリトニー・スピアーズの“Give Me More”、それからメアリーJ・ブライジの“Just Fine”とか。この曲もそういうテイストがあると思うし、いまラジオでかかってるどの曲とも違うわ」。

 アルバムの随所では、ヒップホップ・クラシックを引用したバッド・ボーイらしいプロダクションも楽しむことができる。なかには2パック“Got My Mind Made Up”をベタ敷きした“All I Wanna Do”もあるが、やはり極め付けはノトーリアスBIG“Sky's The Limit”のオマージュとなる“Dropping Out Of Love”。このたびバッド・ボーイのCEOに就任したハーヴ・ピエールの何とも粋な計らいだ。

 「バッド・ボーイに所属していていちばん興奮するのは、やっぱりビギーも同じレーベルだったってことなの。彼のようなレジェンドとコネクトできるのは、たとえ間接的であっても素晴らしいことだわ」。

 バッド・ボーイのオフィシャル・サイトからブラック・ロブとG・デップの名が消えた現在、意外なことにレーベル生え抜きの最古参アーティストはこのシェリだったりする。だからというわけではないのだが、ヒップホップ・ソウル調のトラックによく映えるスムースでさらりとした彼女のヴォーカルは実にバッド・ボーイ的で、ひょっとしたらシェリこそがバッド・ボーイ・イズム最後の体現者なのでは、なんて気もしてくる。それはもしかしたら“Sky's The Limit”のセンティメンタルなビートに引っ張られているだけなのかもしれないけど、彼女の歌の〈さりげなさ〉が現行シーンにあって貴重な個性であるのは間違いないと思う。

PROFILE

シェリ・デニス
79年生まれ、オハイオ州クリーヴランド出身のシンガー。ティーン時代にはラップ・グループの一員として地元で活動し、その解散後にNYへ移り住む。99年、メイスのアルバム『Double Up』に参加したのをきっかけとしてバッド・ボーイと契約。P・ディディ“So Complete”などの楽曲でソングライティングやヴォーカルを担当していく。2004年のコンピ『Bad Boy R&B Hits』に初のソロ曲“Caught Up”を提供し、2006年に正式なデビュー・シングル“I Love You”をリリース。以降もヤング・ジョックやダニティ・ケインらの作品をバックアップしながらレコーディングを進め、3月5日にファースト・アルバム『In And Out Of Love』(Bad Boy/Atlantic/ワーナー)をリリースした。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年03月19日 13:00

更新: 2008年03月19日 17:27

ソース: 『bounce』 296号(2008/2/25)

文/高橋 芳朗