インタビュー

エルマロ

ふたたび姿を現した2人が、過去最高にポップでやっぱり規格外のヤンチャさをかます新作を投下! 2008年ヴァージョンの彼らから目が離せない!


 エルマロの音楽は、會田茂一が掻き鳴らすギターと柚木隆一郎が全身全霊を込めて打ち込むプログラミング・サウンドが、互いに拮抗し合ったり手を取り合ったりしながら、ぐちゃぐちゃに混じり合って生み出されている。

 90年代半ば~後半にかけてコンピューターが進化/廉価化して普及すると共に、日本でも生演奏とプログラミングを融合させたスタイルのユニットやバンドが続々と出現した。95年にケミカル・ブラザーズが『Exit Planet Dust』を発表して、ダンス・ミュージックのスタイルでもロックできるのだということをわかりやすい形で示したことも日本のアーティストに多大な影響を与えたと思う。しかしエルマロがファースト・アルバム『STARSHIP IN WORSHIP』で登場したのはソレよりも前。しかも〈Windows 95〉すら発売されていない93年ということを考えると、当時からかなり先鋭的な存在だったと言えるだろう。

 エルマロは見事なまでにそれまであったロックの概念を解体(プログラミングを駆使することによってひとつの楽曲に落とし込める情報の容量が膨大となったため、彼らの音楽においてはスタイルもジャンルも時間軸もほとんど意味のないものになった)しつつ、それ以降4枚のフル・アルバムで彼ら流のロックを提示した。なおかつ、エルマロはコンピューターを身体の一部として神経までも通っているかの如く操り、彼ら自身の精神や観念、情念をも注入。そんな膨大な情報量を孕んだ音を、過激な生演奏と拮抗させ、カテゴライズ困難で自由奔放な音楽を生み出した。

「音楽を作るのに入り込んでる時は精神的にもたぶんイッてるんでしょうね。昔、作り終わってすぐに人と会った時も相当ヤバイ状態だったらしくて、自殺するんじゃないかって思われたこともありました(笑)」(柚木隆一郎:以下同)。

 決して大袈裟な物言いではなく、そこまで生命をすり減らしながら音楽を生み出すエルマロが寡作なのは納得がいくだろう。

 そんな彼らがこのたび前作から4年ぶりの新作『NOFACE BUTT 2 EYES』を発表した。ここにあるのは相変わらず唯一無二なエルマロの音楽だが、もちろんヴァージョンは2008年版。これまでを遥かに超える勢いで狂っているが、表の顔はこれまで以上に優しい。コード進行とリズムは複雑怪奇なのに、親しみやすいメロディーや艶っぽいヴォーカルが堂々と絡み合う。常識に囚われない曲の構造は一聴しただけでは理解しづらいだが、最終的にはれっきとしたポップスとして着地させている。

「まあね、デビューした頃のような暴走感とか、いつかはできなくなるだろうからやれるうちにやっておこうというのもあったし。かと言って、自分たちだけがわかる世界を突き詰めるんじゃなくて、ポップスっていう枠もあえて避けないで。それで何かがハミ出してたらハミ出てる分も俺たちだし、そのまま出しておけばいいか、と」。

 愛と悪意、サービス精神と悪戯、形而上と形而下が共存したエルマロならではのサイコでセクシーなグルーヴを、とびきりキャッチーなフォーマットにギュウギュウ詰めにして、枠に収まらない部分をそのまま放置し、ソレごとドーンと突きつける――そんな2008年版のエルマロは、過去最高のポップさを持ちながら、実にしたたかに、攻撃的である。

▼エルマロの作品を紹介。

▼関連盤を紹介。

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掲載: 2008年03月27日 16:00

更新: 2008年03月27日 17:42

ソース: 『bounce』 297号(2008/3/25)

文/駒形 四郎