インタビュー

Qomolangma Tomato

  「夜が好きなんですよ。特に深夜は解放された気分になる時がよくありますね。今回のアルバムは、そういう夜のイメージと、リフを前に出さない音の雰囲気が凄く合ってるなって思います」(石井成人:以下同)。

 スリリングなギター・リフと圧巻のグルーヴを繰り出すリズム隊、歌ともラップともポエトリー・リーディングともつかない独特のヴォーカル・スタイルで、〈柵〉に向けて連射される苛烈な言葉、言葉、言葉の数々――。初の全国流通となったファースト・フル・アルバム『チョモと僕は柵の中』における凶暴かつ斬新なハードコア・サウンドで、2007年の日本のロック・シーンに大きな衝撃を与えた4人組、Qomolangma Tomato。ただ、冒頭の石井の発言で気付いた人もいるかもしれないが、今回彼らが完成させたニュー・アルバム『Limelight Blue on the Q.T.』は、あきらかな進化を遂げている。

 「前作を出した直後からまた曲を作りはじめて、未完成のままツアーでも演ってましたね。僕らはライヴの流れのなかで曲を形にしていくんで、必然的に前作とは違うイメージのものになったと思います。これまでと同じような色の曲だと、ライヴで被っちゃうから。4つ打ちのリズムでコード感なく進む“359°は捨てる ~地下街の喫茶店~”とかは半年ぐらいセッションしていて、新しさがあるぶん、出来るまでに時間がかかりました」。

 昨年の全国ツアーを通じてバンドとしての体力が強化されたことは、本作を一聴しただけで明白だ。殺傷力を高めたドラムと重低音のベースによるグルーヴは、リスナーの腰を直撃する肉体性を獲得。一歩引いたギターは随所で叙情的なディレイを響かせ、かと思えば突如ギラつくリフで斬り込んだりと、全体にドラマティックな起伏をもたらしている。そんなサウンド面での成長と呼応するように、石井が操る破壊的な言葉の照準も、10代の〈柵〉から現在24歳の彼が抱える〈闇〉へと移行。荒み切った言葉が吐き出され続けるなか、その攻撃性はアルバムの中間点に位置する“静寂と壁と闇 ~PUBLIC NOISE FADE OUT~”でひとつのピークを迎える。淡々とした前半からエモーショナルな後半に転じた瞬間、カタルシスが奔流となって押し寄せるこの曲を境に、トーンを抑えたベース・ラインが真夜中の静寂へ導くラスト“けだるくまぶしい ~素直になりたい~”に向かって、〈闇〉の質感は徐々に変化する。

 「〈静寂~〉は自分でもいちばん大事にしてる曲で、はっきりイメージしてる場所があって。ある公園に、夜中にひょこっと行ってボーッとしたりする高台があるんです。遠くに街が見えてて……全部燃えちゃえ、とか思って(笑)。でも、凄い哀しくなったりもする。周りのガヤガヤした感じからフェイドアウトしていくこの曲で、(アルバム冒頭の)モヤモヤしたところから抜け出せればな、って思うんです。前作は、聴いてると初期衝動のなかに自分の無垢さが見えるんですよ。でも今回は、グルーヴに身を任せながらもメロディーはあまり動かない……ポスト・パンク的なことをやろうとしていて、そのなかで自分の青年期の闇を出そうとしたんですけど、辛くて聴けない(笑)。そういう自分を助けてあげようと一曲一曲サブ・タイトルを付けて幅を持たせてみました。それで最後に〈素直になりたい〉って書いたら、すごくスッキリしたんです。素直な――無垢な自分も大事にしてあげなきゃと思って」。

 本作のリリース後、彼らはふたたび全国ツアーへ突入する。タイトルは〈逃げろ、逃げるな〉。前作と今作を象徴するこの言葉が、彼らのこれからを照らし出している。

 「まったく逆のことを言うことで、切羽詰まった危機感を出したいなと思って。前作では〈自分から逃げるな〉って言ってるんですけど(“through your reality”)、今回等身大を出してみたら、あまりに暗い攻撃性が出てきた(笑)。だから〈逃げろ〉と(笑)。でも、そういう曲を演っていても解放へと向かえるような、次に繋がるアルバムになったと思います」。

PROFILE

Qomolangma Tomato
石井成人(ヴォーカル)、小倉直也(ギター)、山中治雄(ベース)、大工原幹雄(ドラムス)から成る4人組。2003年に横浜で結成され、地元を中心にライヴ活動を展開する。2005年に限定店舗でデビュー・ミニ・アルバム『hontowashigaraminonaka』を発表。2006年に〈サマソニで待つ! STAIRWAY TO SUMMER SONIC AUDITION 06〉に出場し、〈サマソニ〉出演権を獲得。2007年にはコンピ『...and out of this world 3』に“ネタのないパブリック”を提供、そしてファースト・フル・アルバム『チョモと僕は柵の中』を発表し、2年連続で〈サマソニ〉にも出演。4月9日にセカンド・アルバム『Limelight Blue on the Q.T.』(AVOCADO)をリリースした。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年04月10日 19:00

更新: 2008年04月10日 19:02

ソース: 『bounce』 297号(2008/3/25)

文/土田 真弓