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インタビュー

FLO RIDA


  「T・ペインが才能をフルに発揮してくれて出来た奇跡のヒットさ(笑)! 俺らは新しい曲が出来たらストリップ・クラブで反応をチェックするんだけど、“Low”をかけたらすぐに〈この曲ちょうだい! CDはどこ?〉ってストリッパーが大騒ぎだったよ!」。

 フロリダ州のキャロルシティから現れた新人ラッパー、フロウ・ライダーが興奮気味に語るのは、言うまでもなく彼のデビュー・シングルのこと。締切の都合で途中経過になってしまうけど、その“Low”は全米チャートにて10週連続1位を独走中! これはビルボード史上〈デビュー曲の過去最長No.1記録〉にタイで並ぶんだそうで。そうじゃなくても、T・ペインが歌う〈Low, Low, Low~♪〉というフックに合わせて姿勢を低く、低く、低くしていく無邪気なダンスも含めたこの曲の破壊力は、聴けばすぐにわかるモンスター級なのである。

 で、フロウ・ライダーの出現にはもうひとつポイントがある。それはT・ペインやリック・ロス、DJキャレド、プライズらイキのいい連中を次々と送り出してきたフロリダ・シーンの時節到来を決定付ける存在だということ。そもそもフロリダをフロウ・ライダーと読み替えたMCネーム自体が良くできた名前だと思うわけで。

 「ありがとう。昔はママの付けたニックネームでそのまま呼ばれてたんだけど、いつかはキャッチーな名前を付けなきゃ、って思ってたんだ。それである日、〈フロリダをフロウ・ライダーって発音するのはどうだろう?〉って思い付いた。高速フロウを自在に乗りこなすぜ!みたいな意味でね。まあ、〈こんな名前ってアリ?〉って仲間に訊いて回ったけど(笑)。グラウンドホッグズというグループでやってた頃からだから、もう10年くらいになるな」。

 そんな発言からも透けて見えるように、彼は現在28歳。ラッパーの低年齢化が進む昨今においては遅咲きの新人ということになる。10年以上の下積みを耐え抜いてきただけあって本気度もハンパじゃないが、実際に彼が本気でラップをやるようになったのは、姉の1人を病で失った時からだそうだ。いわく「その時に目が覚めたよ。親父はいないし、7人姉弟で男は俺だけだし。自分が授かった才能を最大限に活かして、皆に恩恵をもたらしたいと思った」ということで……男前じゃないか。ティーンの頃に2ライヴ・クルーのフレッシュ・キッド・アイスに目を掛けられ、その後はデヴァンテ・スウィング(ジョデシィ)の導きでLA暮らしも経験したフロウだが、「あの経験があったからこそ、ローカル・サウンドをゴリ押しするだけじゃなく、もっとユニヴァーサルな音を作れるようになったんじゃないかな」と、成功するまでの遠回りもポジティヴに捉えている。そんな奮闘の果てに登場した待望のファースト・アルバムが『Mail On Sunday』だ。表題は「郵便が日曜に届かないように、内容もありきたりじゃない」という意味だそう。

 「俺はジミ・ヘンドリックスを愛してるし(写真のタトゥーを参照)、姉貴たちのゴスペルを聴いて育ったからたぶん音痴じゃないし(笑)、メロディアスな部分やハーモニーにも気を遣ったよ。もちろん結果には満足してる。底辺から這い上がってくる葛藤も、ある程度成功してからのグッド・ライフぶりも、その中間のどっちつかずな不安も、俺の経験がすべて注ぎ込めたからね」。

 ティンバランドによる強力なセカンド・シングル“Elevator”や、亡くなった姉に捧げた哀感漂う“All My Life”、ウィル・アイ・アム製のマイアミ・ベース、ロジャー使いの甘味スロウなど、アルバムの収録曲は本気で粒揃い。ポー・ボーイの仲間であるリック・ロスとブリスコに加えて、リル・ウェインやヤング・ジョックなどゲストも豪華だが、ヒット・ボーイ&チェイスン・キャッシュやケインといった新進プロデューサーの起用が目立つ点も作品全体の勢いに直結している。「曲ごとにフロウも変えてるし、俺のライム・パターンはありきたりじゃないことに気付いてもらえるはずさ!」と豪語するだけあって、多彩なビートにライドする変幻自在な男気フロウは、“Low”だけでは量れないポテンシャルを証明している……って誉めすぎだけど、実際に最高なんだからしょうがないよ!

 「アルバムのNo.1もめざしてるし、ヒットで得たカネで地元のフッドに図書館を建てたいんだ。知識は向上するための鍵だからね。でも、No.1を狙うためにやるんじゃなく、最初は音楽に対する愛ありき。その気持ちをいつまでも大事にしたいね」。

PROFILE

フロウ・ライダー
79年生まれ、フロリダはキャロルシティ出身のラッパー。教会で歌っていた姉たちに囲まれ、ゴスペルやブルースなどに親しみながら育つ。ティーンの時に友人たちと結成したグラウンドホッグズなるグループで本格的にラップを開始。98年にフレッシュ・キッド・アイスの全米ツアーに同行する。その後はデヴァンテ・スウィングの誘いでLAに移住。2006年、ポー・ボーイとの契約をきっかけに地元へ戻り、DJキャレド“Bitch I'm From Dade Coutry”などへの客演を経て、2007年末にシングル“Low”でデビュー。今年に入って同曲が全米チャートで10週連続1位を記録して話題を集める。このたびファースト・アルバム『Mail On Sunday』(Poe Boy/Atlantic/ワーナー)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年04月24日 22:00

ソース: 『bounce』 297号(2008/3/25)

文/轟 ひろみ