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インタビュー

AMANDA BRECKER


  その美しい歌声で、ジャズ・シーンに爽やかな風を吹き込むニューカマー、アマンダ・ブレッカー。まず話題になっているのは、彼女の父親が大物トランペッターのランディ・ブレッカーであり、母親はブラジル出身のヴォーカリスト、イリアーヌ・イリアスだということ。つまり、ジャズ界のサラブレッドともいえる彼女は、子供の頃から両親のもとで音楽に親しみ、なんと9歳にしてミルトン・ナシメントのステージで歌ったこともあったとか。しかし、そんな彼女にとっても、デビュー・アルバム『Here I Am』のレコーディングは特別な体験だったようだ。

「両親の仕事を見て育ってきたから、レコーディングの雰囲気には慣れているつもりだったの。でも、いざ自分のレコーディングになると、いままで気付かなかったことがたくさんあって、改めて難しさを感じたわ。それにレコーディング当日、私はかなり体調を崩していて苦労した点もあったけど、ミュージシャンたちのパフォーマンスは素晴らしくて、リハーサルの段階でほとんど思ったとおりのサウンドに仕上がっていた。とても素晴らしい体験だったわ」。

 もちろん、レコーディングには両親も参加。以前、アマンダは母親の作品に参加したことがあったが、今回の両親を交えてのセッションは格別なものだったに違いない。  

「私のアルバムに両親が参加してくれたのは、本当に嬉しかった。なにより2人とも尊敬する素敵なミュージシャンだもの。でも母に関しては、レコード会社との取り決めで1曲だけの参加ということだったの。それが“Lovetalk”を聴いたとたん、この曲にも入ってくれると言ってくれて。そのことでレコード会社に迷惑が掛からないかと、ちょっと心配……」。

 思わず母親のミュージシャン魂に火を点けてしまうほど力の入った本作。収録曲はカヴァーとアマンダのオリジナル楽曲が半々といったところだが、「周囲から声が似ている」と言われるノラ・ジョーンズをはじめ、ボニー・レイットやヒューイ・ルイスなど、カヴァーの選曲がユニークだ。なかでもジョン・メイヤーのヒット曲“Your Body Is A Wonderland”をレゲエのアレンジで歌っているのには驚かされた。

「私はジョン・メイヤーの大ファンで、彼の音楽も作風も大好きなの。彼の音楽は私が曲を書くうえですごく参考になるのよ。とりわけこの曲は素晴らしい曲だと思うし、女性がジョン・メイヤーの曲をカヴァーするのは初めてということもあって、とても興味があったわ」。

 ちなみに全曲のアレンジを担当したのは名匠のデヴィッド・マシューズだが、アマンダにとっては最高のパートナーだったようだ。「アレンジには私の意図が完全に生かされている。私が弾き語りで歌っていた時の雰囲気がそのまま保たれているわ」とマエストロにリスペクトを捧げている。しかし、なんといっても本作のヒロインはアマンダ自身。

「いつも細かいところまで気になりがちなんだけど、今回はナーヴァスにならないで歌詞の意味をしっかり掴んで歌おうと思ったの」。

 そう告白する彼女の歌声は、透明感に満ちていて温かく、時には余裕さえ感じさせる。まさに彼女は生まれながらのシンガーなのだ。

「気がついたら、音楽はずっと私のそばにあった。自然にステージに立って、自然に曲を書いて……。今回こういうデビューの機会を得たことはとても嬉しいことだけど、正直なところまだ実感が湧かないわ。アルバムが世に出ていろいろな人に聴いてもらえたら、また感じは変わるのかもしれないわね」。

 果たして彼女がこれからどんなふうに変わっていくのか。それは神のみぞ知るところだが、きっといつだって彼女の歌には〈ヒア・アイ・アム(私はここよ)〉という自信が込められているに違いない。

PROFILE

アマンダ・ブレッカー
84年生まれ、NY出身のシンガー。父親にトランペッターのランディ・ブレッカー、母親にジャズ・シンガーのイリアーヌ・イリアス、そしてサキソフォニストのマイケル・ブレッカーを叔父に持ち、幼い頃より音楽に囲まれた環境で育つ。8歳の時にイリアーヌのアルバム『Fantasia』に参加し、ミルトン・ナシメントのメドレーを披露。9歳の時には彼のステージにゲスト出演する。学生時代より自身のバンドのほか、アカペラ/コーラス・グループなどに参加。その頃に作った自主制作盤がデヴィッド・マシューズの耳に留まって本格的な音楽活動を始める。ライヴを中心に活動を展開するなか、このたびデビュー・アルバム『Here I Am』(BIRDS)を日本先行でリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年08月21日 21:00

ソース: 『bounce』 301号(2008/7/25)

文/村尾 泰郎