Lloyd
「『Street Love』はヒップホップとR&Bのより完璧なブレンドで、よりポピュラリティーのあるサウンドになったと思うね」。
盟友のリル・ウェインをフィーチャーした“You”が全米2位まで上昇し、才能がひしめくヤング・アーバン戦線でズバ抜けた存在感を示すことに成功したロイドは、最終的にプラチナ・ヒットとなった昨年のアルバム『Street Love』についてこう語る。それから1年、若いヤツは回復も早い……ってことなのか、勢いのままにニュー・アルバム『Lessons In Love』を完成させた。
ソングスターとして頂点を極めたアッシャーが『Here I Stand』で大人のエンターテイナー路線へと踏み出し、その空席をクリス・ブラウンやオマリオン、マリオ、レイ・Jといった面々が奪い合う格好になっている現在。実際にはそれぞれ持ち味が異なるわけで、アーティストとしてのスタイルやアティテュードも一様ではない。ただ、そのなかでロイドが間違いなく抜きん出ているのは、ロマンティックでセクシャルな表現力、スムースなのに濃厚なストリート・ラヴの匂いを醸し出す瑞々しい歌い口の部分じゃないか。下世話な言い方をすれば、危険でエロいってことになるのだが。
「ああ、オレのやってる音楽はすべて女の子のためのものさ(笑)。いまの状況を楽しんでるよ」。
そんなふうにリップ・サーヴィスしてみせるあたり、よくわかってるプロフェッショナルという印象だが、それもそのはず。彼はローティーン時代にN・トゥーンというキッズ・グループでデビューを飾っているのだ。アトランタの教会で歌っていた少年たち4人で96年に結成されたN・トゥーンは、99年にダラス・オースティンのプロデュースでメジャー・デビューを果たすものの、それから数年ですぐに解散の憂き目を見ている。若くして成功したと思われがちながら、すでに10年以上もプロのキャリアがあって、その前半戦は著しく不遇だったロイドは、イメージ以上の苦労人でもあるのだ。これまでにいちばん誇らしかった出来事を「母親に車を買ってあげたこと」と明かし、自身のプロダクション/レーベルであるヤング・ゴールディーを立ち上げた理由も、「周りの奴らを表舞台に出すきっかけになればいいと思ってね。才能はあってもチャンスに恵まれない奴もいるからね」と説明するのも、まさにそんな経歴あってこそだろう。先述の“You”を手掛けたのもグループ時代から関わりのあったジャスパー・キャメロン(ダラスの弟子だった)とビッグ・リースであり、身近な仲間と作り上げた楽曲が大きな成果を生んだことで自信も深まったはずだ。そんな経緯もあって、新作の『Lessons In Love』はジャスパー&リース組を前作以上に起用したある種のチーム作品なのかもしれない。
で、ロイド自身が「今回はさまざまな形の〈ラヴ〉を表現したアルバムだよ」と説明するその『Lessons In Love』では、今回も基本的にロイド自身がリリックを書いているのだが、実体験をベースにしたというそのセクシャルっぷりは前作以上だ。〈キミに講義してあげる〉と歌う冒頭の“Sex Educatuon”からして何をかいわんや、である。自分をプレゼントに見立てて〈包装紙を剥がしてくれ〉と囁く“Party All Over Your Body”だとか、〈キスしたい、下の唇に〉とか……「自分も年齢を重ねたわけだし、サウンドやテーマも成熟して当然だろ?」とは言うが、成熟しすぎじゃないか。まあ、これぞ黒人音楽の真骨頂という部分でもあるし、女性陣は存分に酔わされていただきたい。
現在はプロモーションに忙しいというロイド。各地で披露しているというパフォーマンスについては、「ステージは凄く重要だし、ダンスも常に改善してるんだ。ファンのみんなにより良いショウを楽しんでもらうためね」とも語る。その磨き上げられた歌世界をぜひ日本でも体感してみたいものだが、ひとまずは彼が手ほどきする愛のレッスンを受講するのが先決だろう。
PROFILE
ロイド
86年生まれ、ニューオーリンズ出身のR&Bシンガー。幼少時にアトランタへ移り、地元の教会で友人たちと歌うようになる。96年にジョイス“フェンデレラ”アービーに見い出されてN・トゥーンを結成。99年にデビューするものの、2000年のアルバム『Toon Time』を残してグループは解散。フェンデレラの手引きで2003年にジ・インクと契約し、翌2004年にソロ・デビュー・アルバム『Southside』をリリース。ヤング・ジーズィやリック・ロスらとのコラボを経て、2007年のシングル“You”とセカンド・アルバム『Street Love』が連続ヒットを記録する。このたび、ニュー・アルバム『Lessons In Love』(Young Goldie/The Inc./Universal/ユニバーサル)をリリースしたばかり。