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インタビュー

LEILA


  いつも自転車に跨ってジャケットに登場していたレイラを、皆さんは覚えていますか? ビョークとはかつて旅を共にした仲で、彼女初のソロ・ツアーではキーボーディスト、〈Post Tour〉ではライヴ・ミキシング担当として参加してきた才能豊かな女性だ。98年にリチャードD・ジェイムスのレーベル=リフレックスからリリースしたファースト・アルバム『Like Weather』は、繊細な電子音と刺激的なノイズで織り成された美しくも幽玄な世界観が評判を呼び、カルト的な人気を博した。2年後にはXLから2作目『Courtesy Of Choice』を発表。順風満帆だと思われた彼女だったが、その後の動きはプッツリと途切れてしまった。

「実は2000年の初頭に母が病気になってしまって、その介護をしていたの。悲しいことに母は他界してしまって、その後は父との時間を優先していたんだけど、今度は父も亡くなってしまったのよ。それ以降もビョークのワールド・ツアーには参加していたんだけど、両親の死を体験したことで、人生において音楽がプライオリティーではない時期があったの。やっと楽曲制作を再開できたのは、ここ2年くらいのことね」。

 どんなに強靭な心の持ち主でも打ちのめされるであろう出来事を体験し、深い悲しみのどん底にいたレイラであったが、そんな彼女を救ったのが、これまで多くの時間を割いてきたものであり、家族と共に身近な存在である音楽だったのである。

「もう手中にないものを思って嘆くのではなく、いま私が持っているものを大切にしようと思ったのよ。そして、私には素晴らしい家族、友人、そして音楽への情熱があることに気付けたわ。それに、落ち込んだ時に曲を作ると気持ちが楽になることもあったし、音楽という大きな存在に感謝する気持ちも生まれてきたの」。

 こうして久しぶりに届けられた3枚目のアルバム『Blood, Looms And Blooms』は、実姉のロワイヤや、往年のトリッキー作品でお馴染みのマルティナ・トップリー・バード、印象的な歌声を提供したテリー・ホールら、友人~知人が多数参加するというリラックスした環境で制作されたものだ。十八番であるノイズ、シネマティックなサウンドスケープ、ミステリアスな雰囲気はもちろん、遊び心のあるビートや気分を昂揚させるメロディー、そして多様な音楽性が合わさり、いままでにないポジティヴな空気に満ちている。

「この世のすべてがインスピレーションの源だとも言えるし、何からもインスパイアされていないとも言えるわね。音楽面ではラヴェルからスヌープ・ドッグまで、さまざまな人から刺激を受けているわ。でも、既存の音楽を焼き直すことにはまったく興味がないし、人の真似なんてまっぴらよ」。

 彼女の発言どおり、前作に収録されていた“Young Ones”のアコースティック・セルフ・カヴァー、テリーとマルティナのデュエットが聴けるノスタルジックなバラード“Why Should I?”をはじめ、豊富なアイデアと音楽への情熱を感じられるユニークな楽曲が並ぶ。そのなかでひときわ異彩を放つのがビートルズのカヴァー“Norwegian Wood”だ。

「昔からあのメロディーが大好きだったのよね。ある日、古いデータを聴き直していたら、その曲のトラックが“Norwegian Wood”にピッタリだということに気付いたの。そこで友人のルカにちょっと歌ってもらって、30分ほどで完成したわ。オリジナルとは異なる自分らしいカヴァーになったから、とても満足している」。

 このようにして音楽への意欲を取り戻したレイラ。ワープからのリリースということもあってふたたび話題の中心に躍り出そうだ。ライヴを想定して制作活動に励んでいるというから、ライヴでお目にかかれる機会も近いうちに訪れるかも!?

PROFILE

レイラ
71年生まれ、イラン出身のサウンド・クリエイター。イラン革命時に家族とロンドンへ移住する。独学でピアノ演奏を習得し、大学時代にはDJとして活動。93年にビョークと出会い、彼女のツアーに鍵盤奏者/ミキサーとして参加する。それと並行して宅録を始め、97年にリフレックスから“Don't Fall Asleep”でデビュー。翌年のファースト・アルバム『Like Weather』が高い評価を獲得し、2000年には2作目『Courtesy Of Choice』をXLから発表する。以降もエミリー・シモンやシアのリミックスを手掛けるが、両親を相次いで亡くしたこともあって近年は創作活動をほぼ休止していた。このたび8年ぶりとなるニュー・アルバム『Blood, Looms And Blooms』(Warp/BEAT)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年09月18日 00:00

更新: 2008年09月18日 17:33

ソース: 『bounce』 302号(2008/8/25)

文/青木 正之