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インタビュー

EMI MARIA


  日本でもR&Bシンガーの層がまた厚くなってきている昨今。そのなかで自分しか持っていないもの、誰にも負けないものがあるとしたら、それは何だと思う? そう問うと──「ソウルの入った歌。歌唱力や曲のクォリティーはどうにでもなるけど、ソウルの入った歌は誰にでも歌えるものじゃないと思います」。

 つまり、EMI MARIAにはそれが歌えるのだ。彼女を知ったきっかけがSEEDA“花と雨”だったという人は多いと思うが、熱情を帯びたラップに絡む深い歌声は、確かにその名を知らなくても心に残るものだった。それからおよそ2年、実りの多い客演の数々や、関西を中心とした精力的なライヴ活動、そして高い評価を得たミニ・アルバム『Between the Music』などのリリースを経て、初のフル・アルバム『A Ballad Of My Own』がようやく届けられる。

「『Between the Music』の時よりはリラックスして作れた気はしますね。しすぎたかもしれないけど(笑)」。

 現在21歳。パプアニューギニア生まれで、5歳の頃から神戸で育ってきた彼女は、R&B好きな姉の影響で音楽に親しむようになったというから、その音楽的なルーツは主に90年代のR&Bにあることになる。

「衝撃だったのは、幼い頃だとマライア・キャリー、もう少し大きくなってからだとK-Ci&ジョジョ! あとは映画〈天使にラブソングを2〉に出てくる曲ですね。それでゴスペルだったり、ソウルフルな歌を歌いたいと思うようになりました」。

 そこまではよくある話としても、彼女がユニークなのは早くからR&Bのトラック部分にも関心を抱いていたことだろう。聞けば、中学3年生の時から、音楽の先生に方法を教わったりしながら自己流でDTMでのトラックメイクを修得してきたそうで。

「いろんな曲を聴いていくうちに〈歌は良いけど、トラックがイマイチ〉とか〈オケは良いのに、歌がダメ〉と思うようになって、それから興味を持ちはじめたんですよ」。

 シンガーという目標をより明確に見定めた高校生の頃には、FIRSTKLASがMTVで主催したオーディションにエントリーしたそうだが、その経験は「初めて自分の向かうべき方向が見えたというか、セルフ・プロデュースでやっていきたいと確信したし、そうでなきゃダメだと思った」と、却って彼女自身のアーティスト志向を強くする結果になったようだ。そのような意志から生まれたのが、昨年の『Between the Music』であり、今回の『A Ballad Of My Own』ということになる。基本的にトラック→曲→詞の順番で楽曲を織り上げていくそうだが、今回のアルバムに採用したなかには15歳の時に作った曲もあるのだそう。

「自分にとってはあまり〈旬〉じゃない曲もあったから、最初は悩んだんですよ。だけどトラックをブラッシュアップすることで凄く良くなって。曲のストックもこれからはどんどんしていかないとヤバイです」。

 とはいえ実際のところ、そのように楽曲をトラックごと自作するという才能をさほど強調する必要もないように思えるのは……彼女の歌そのものがズバ抜けて素晴らしいからだ。独特の翳りを帯びた声で、張り上げることなく濃密なヴァイブを楽曲の隅々にまで伸びやかに行き渡らせていくヴォーカルは、〈爽やかなディープネス〉とでも表現すべき不思議な心地良さに満ちている。RYU-JA(NITEMEN)のビートで淡々と滑り出す“Drive”で幕を開け、AILIのトラックも情熱的なアップ“愛と夢のあいだで”や、2000ワッツを思わせる90年代マナーの濃厚なスロウ“雨”など楽曲も粒揃いだ。そしてやはり圧巻なのは、サザン・バラード調に仕上げられた表題曲だろう。マジで凄い。「初めて自分のなかで〈パーフェクト!〉って思えた曲です」と本人も語っているが、これはもう聴いてもらうしかない。たぶん、泣くよ。

 なお、彼女の曲は〈好き〉とか〈悲しい〉とかだけじゃない歌詞も良い出来で、男性に対するストレートな心情の吐露なども興味深いのだが……現実のEMI MARIA本人は、その手のことを率直に口にできるタイプなのだろうか?

「ストレートに言えないんですよ……だから、どんどん曲が出来るんですよね。私にとって音楽とはそんな感じなんです」。

PROFILE

EMI MARIA
87年生まれ、パプアニューギニア出身/神戸育ちのR&Bシンガー。中学時代にR&Bに興味を持って歌いはじめ、並行してソングライティングやトラック制作も独学で修得していく。2005年頃より関西でのライヴを中心に活動を本格化させ、2006年にはSEEDAの“花と雨”に参加。2007年に入るとウルフパックやMC MOGGY、I-DeAらの作品に次々と客演し、ファースト・ミニ・アルバム『Between the Music』をリリースする。今年に入ってからは活動範囲を全国区へと拡大し、7月にファースト・シングル“I gotta -Summer Kiss-”を発表。L-VOKALや般若、DJ KOMORIとのコラボでも評価を高めるなか、このたびファースト・フル・アルバム『A Ballad Of My Own』(KSR)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年11月06日 22:00

更新: 2008年12月19日 14:44

ソース: 『bounce』 304号(2008/10/25)

文/轟 ひろみ