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インタビュー

JAZMINE SULLIVAN


  〈ネオ・フィリー〉ブームに沸いていた2002年、本誌〈フィリー特集〉で〈地元で話題の15歳の女の子。将来は大物になるかも〉と紹介していたジャズミン・サリヴァン。フィリー(とNY)で行われていたオープン・マイク・イヴェント〈Black Lily〉で注目を集め、「兄と姉みたいな存在」と慕うキンドレッドの曲でも大人びた歌声を披露していたあの娘が、大胆不敵な処女作『Fearless』を引っ提げてついにJからデビューした。待たされたね、ジャズミン。

「ええ。私が突然シーンに現れたって思ってる人も多いんだけど、それは違うわ。ホント、やっとここに辿り着いたって感じだもの。最初はジャイヴと契約してアルバムも完成させてたけど(クリスティーナ・ミリアンが歌った“Say I”と“Twisted”も実はジャズミンの曲だった)、結局解雇された。辛かったけど、それから本気でソングライティングの才能を磨こうと努力したの。結果的には人間としても成長できたし、これで良かったわ」。

 歌の上手さはお墨付き。〈Black Lily〉仲間のジル・スコットも憧れるゴスペル歌手、キム・バレルに影響を受け、そのキムと共演していたスティーヴィー・ワンダーからも絶賛される歌声には、実年齢以上の深みと迫力がある。何せ、5歳から教会で歌いはじめ、11歳の時にはゴスペルのレーベルから契約を持ちかけられたほど。ただ、教会出身者によくある厳格な家庭で育ったという感じではなく、「母はいろんな音楽を聴かせようとしてくれてたわ。実は私が頑固でゴスペル以外は聴かなかったの!」と言うほど、家庭環境はオープンだった。ジャズミンという少し変わった名前も、お母さんがジャズ好きで名付けたのだという。憧れのシンガーはビヨンセにアリシア・キーズ、メアリーJ・ブライジ。特にメアリーは特別な存在のようで、実際、哀感を滲ませながら疾走していくような“Call Me Guilty”にはその影響も窺える。

「彼女は本当にリアルだし、情熱的。だからこそオーディエンスとの結び付きが強まるんだ、って感じたの」。

 2005年にジャイルズ・ピーターソンのコンピ『Gilles Peterson Presents The BBC Sessions Vol. 1』で“Braid Your Hair”という曲を披露していた時点ではネオ・フィリー的なジャジーR&Bシンガーという印象も強かったが、彼女の振り幅はもっと広い。

「もちろんフィリーのサウンドには強い影響を受けたわ。ただ、私はもっといろんな音楽を聴いてきたから、そんな私を多くの人に知ってほしかった。ポップス、ゴスペル、R&B、レゲエ、ヒップホップ、全部のファンにね」。

 その発言どおり今回のデビュー作では、すでに備わるソウルネスを軸としながら軽々とジャンルを跨いでみせる。R&Bチャート1位を獲得した先行曲“Need U Bad”も、14~5歳の時からジャズミンをサポートし続けてきたミッシー・エリオットの制作によるレゲエ・ネタの曲だ。

「レゲエのビートに合わせて歌ったことはなかったから最初は不安だったけど、〈大切なのはフィーリングよ〉って自分に言い聞かせて歌ったら上手くいった。フージーズ以来、こういう曲ってなかったんじゃないかしら?」。

 制作陣にサラーム・レミを起用したあたりもアルバムのフージーズ感を強めるかもしれない。また、ダーティ・ハリーやジャック・スプラッシュを起用し、エモーションを込めて切なく歌う感じはアリシア・キーズ的でもあるだろう。それでも、自作のメロディーを自分の言葉で歌うジャズミンはジャズミンでしかなく、彼女自身が遠慮なく曝け出されている。〈恐れ知らず〉と銘打ったアルバム・タイトルのように。

「音楽的に他の人とは違うことをやって、恐れずに賭けをしてみたい。それと、皆に〈どんなことでも恐れずにチャンスを掴んで〉って伝えたかったの。私自身がそうありたいと思っているから、その意思表明でもあるわね」。

 どんな舞台に立っても精彩を放つジャズミンの歌。土台がしっかりしているから、恐れるものは何もないのだ。

PROFILE

ジャズミン・サリヴァン
87年生まれ、フィラデルフィア出身のシンガー。幼少期からジャズとゴスペルに親しんで育つ。11歳の時にTV番組「Showtime At The Apollo」に出演し、音楽学校へ入学。並行して〈Black Lily〉などのイヴェント出演を開始し、2002年にジャイヴと契約してからはキンドレッドやファンテイジアの作品にも参加。その後は契約を失うものの、コンピ『Gilles Peterson Presents The BBC Sessions Vol. 1』に登場し、ソングライターとしてはクリスティーナ・ミリアン“Say I”などを手掛けていく。今年に入ってJと契約し、再デビュー・シングル“Need U Bad”が大ヒットを記録。9月にファースト・アルバム『Fearless』(J/BMG JAPAN)を発表する。12月24日にその日本盤がリリースされる予定。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年12月18日 22:00

ソース: 『bounce』 305号(2008/11/25)

文/林 剛