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インタビュー

HAYLEY SALES


  いやもう、年末だ新年だで慌ただしくてかなわんよ、そうじゃなくてもやること多くてこれを終えたらあれが待ってるし……ってな感じで、忙しさに呑み込まれるままにクルクル回って、ひゃあ、これじゃ自分を見失っちゃうよ~と危険信号が出はじめた時には、ヘイリー・セイルズの歌を聴くといい。彼女はそういう時間の流れ方を変えてくれる。穏やかなその歌声で、〈せかせか慌ただしくせずにスロウダウンして、もっとリラックスしていきましょうよ〉と伝えてくる。で、聴くほうも心底そういう気持ちになる。いや、いまの仕事をほっぽっちゃマズイが、たまには立ち止まることも必要。彼女の歌は、忙しさにかまけて忘れそうになっていた価値観を思い出させてくれるものなのだ。

「私が見る限り、この世の中は物凄いスピードで突っ走って止まれず、そのまま果てまで行って終わってしまいそうな感じ。みんなが締め切りに追われ、そのストレスから一日に何杯もコーヒーを飲んでいる。島で生活している私には、どうしてみんながそんなに焦ったり走ったりしているのかが理解できないわ。心配事がいったい何なのかわからない。そんなに急がないで、音楽を聴きながら一息いれて、レモネードでも飲みながら人生のちょっとした幸せについて考えて、そしてもっと楽しんでほしいって思ったりするの」。

 そんなふうに話すヘイリー・セイルズは、まだ22歳の朗らかな娘さん。島というのはカナダのヴァンクーヴァーのことで、彼女は16歳からそこに住んでいる。家族がそこでブルーベリー農園を営んでいるのだ。そしてその農園のなかに、デビュー・アルバム『Sunseed』をレコーディングしたスタジオがある。それはギタリストである父親が建てたものだそうな。

「パパは昔、ラモーンズとプレイしたり、ジャニス・ジョプリンと友達だったり、グレイトフル・デッドに曲提供したりしていたらしいの。まあ、あの人は真正のヒッピーだからね(笑)」。

 ワシントンDCに生まれた彼女は、そんな父親の性分もあって幼少の頃から世界中を旅して回り、経緯は不明だがダライ・ラマに会ったこともあるそうだ。そうした環境でレゲエやロック、ポップス、ジャズなどいろんな音楽に親しみ、自身の創造力を養っていった。いかにもヒッピー的な父親の教育方針によって、ヘイリー・セイルズという自由尊重型の大らかで純粋なアーティストが誕生したと言えるだろう。

「スタジオのセッティングだけはやってくれたけど、パパは他のことを何も教えてくれず、〈ほれ、自分でレコーディングしてみな!〉って言っただけ。冷たいなとも思ったけど、〈自分で答えを見つけるしかないんだ〉って言ってた。いまではその考え方が正しかったと理解できるわ。私は時間など気にせず、とにかくスタジオでいろんな楽器や機材を夢中でいじって遊んでいた。その経験のおかげで、アルバム制作の全行程を自分でやることができたんだから。そう、これは完全に自分の思いどおりに完成させたアルバムなのよ」。

 ジャック・ジョンソン的なアコースティックのリラックスしたサーフ・ヴァイブス(ちなみに彼女自身もサーファーだ)、横にいる友達や恋人に語りかけるような感じの歌い方と魅力的な声──ギターとピアノを担当し、好きなミュージシャンを集め、完全なるセルフ・コントロールのもとに作り上げた『Sunseed』は、音、メロディー、歌詞のメッセージなど、すべての面に彼女の人間性がそのまま表れた作品だ。

「私の人生のポートレートであり、私なりの経験と人生哲学が反映された作品よ。放浪癖を書いた曲もあるしね(笑)。とりあえず、ちょっと手を止めて深呼吸するような感じで聴いてもらえると嬉しいわ。行き詰まってても、何かがパッと閃いたりするかもしれないわよ!」。

PROFILE

ヘイリー・セイルズ
86年8月生まれ、ワシントンDC出身のシンガー・ソングライター。ギタリストのリチャード・セイルズを父親に持ち、幼い頃から音楽に親しんで育つ。高校卒業後、LAに移住して女優をめざすも健康上の問題により挫折。ほどなくして家族の住むカナダはヴァンクーヴァーに戻り、本格的な音楽活動を始める。2005年頃から地元のフォーク・フェスティヴァルなどに出演する傍ら、レコーディングを開始。その後、ユニバーサル・カナダと契約して、2007年6月にデビュー・アルバム『Sunseed』(Universal Canada/SURFROCK)を発表する。同作でヴァンクーヴァー・アイランド・ミュージック・アワードの女性アーティスト部門を獲得し、2009年1月14日にその日本盤がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年01月15日 19:00

ソース: 『bounce』 306号(2008/12/25)

文/内本 順一