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インタビュー

Discharming Man(2)

――確かに、歌を伝えるんだ、っていう意思はすごく感じられるアルバムになってると思います。冒頭の“因果結合666”とか、前作のヴァージョンを知っていたにも関わらず、社内で聴いていたら本気で泣きそうになって、慌てて止めたという経験があったりします(笑)。

蛯名 それ、いいですね(笑)。嬉しいですね(笑)。

――間違いなく、歌の強度、歌詞の世界観はハンパなく増幅されていると思いますよ。

蛯名 そうですね。やっぱ俺は、昔のフォークとかサイケとかパンクとかハードコアの人の歌詞が好きなんですよね。(遠藤)ミチロウさんとか友部(正人)さんとかルースターズの大江(慎也)さんとか、吉村さんもそうですけど、言葉の使い方がすげえなって思う。あとは中原中也とかいろいろいますけど、なんちゅうのかな? 直接的に「これがこれです」って言うんじゃなくて選択肢を与えたいっていうか、広い解釈ができる歌詞をずーっと前からやろうと思ってるんですよね。ただ、今回は言いたいこと言わしてもらったかな、っていう感じかな。自分のなかの話ですけどね。

――歌詞は、全部自分のなかの話?

蛯名 うん、そうですね。だから「(ほかの人が)これ聴いて、楽しいのかな?」って思うときがありますけど。インタヴューとか受けていても、意味を訊かれてビックリしちゃう。何にも考えないで書いてるから、「何でこうなったの?」って言われると「何でだろうな?」っていうのがあって。

――じゃあ歌詞を書いてるときは無心なんですか?

蛯名 無心ですね。ただ、書くまではすっごい長いです。(言葉が)出て来ないわけじゃないんですけど、全然やらない。書き出すと30分ぐらいで終わるんですけどね。一個単語が出たら、連想ゲームみたいな感じになってきて。それを推敲していく感じですね。


――わりと喪失感を描いた歌詞が多いような気がしますが。

蛯名 うん。まあ、いろんな思いがあるんですよね。俺、人にもの凄い迷惑をいきなりかけてしまうんです。急にすべてを壊してしまったり。バンドの解散もそうだし、まあ普通にね、彼女と別れてしまったりとか物理的なこともあったり。あと、やっぱり一番大きかったのは、3年ぐらい前に親父が死んだことですね。そのときの感覚は、いまでも思うことがあります。このアルバムを聴いてほしかったんだけど、“因果”が入ってる一番最初のデモを作った時点でもう聴かせられないぐらいに病状が悪化してて、その半年後ぐらいに逝っちゃったんですけど。

――残念ですね……。

蛯名 親父は結構ちゃんとした人だったんですよ。子供4人いて、婆ちゃんも家に入れて、ちゃんと全員をひとりで守っててすげえなって思ったけど、いつも大変そうで。「彼はなんで、人のためにこんなに一生懸命生きてんのかな」って、「俺はこんな人生やだな」って思ってたんですよ。親父を見て反面教師っていうか、自分のために生きなきゃダメじゃないかな、とか思って、反発で音楽をやったりとかしてて。親父はそれをよしとしてなかったけど、いつも心配してたらしいです。心配したまま逝ってしまったんですけど(苦笑)。でもいまは、人のために何かをやるってことはすごい大事だよな、って思うんですよね。自分を介してみんなが楽しくなったりとか、笑えたらいいなっていうのがすごいあって。極論言ったら、儲けとかなくてもいいな、と。音楽やり始めたときはホントに俺を、俺を、っていうのがあったんだけど、いまは完全に真逆になっちゃって。俺はいいからみんなでDischarming Manで楽しんで、っていう気持ちはすごいあるんですよね。何なんですかね?  変な境地にいってしまったんですけど(笑)。だからERA(2008年12月19日、元キウイロールのメンバーが所属するバンドが集結したイヴェント)のときもそういうのはすごい出てたと思うんですよね。

――その日は私も現場にいたんですけど、Discharming Manのいい意味でラフなパフォーマンスを観て、「ああ、蛯名さんはもう完全にDischarming Manに振り切ってるんだな」って思いました。でないと、これほどにキウイとの差が出ない。

蛯名 そうですね。じゃないと辞める意味がないし、何で辞めたかったかっていうのは、見ていたメンバ―が一番わかったんじゃないかな。再結成うんぬんとか言われてたけど、あの場にいた人はみんな納得したんじゃないかと。最後は誰もそんなこと(再結成があるとは)思わなかったと思う。

――ちなみに、ライヴのときも無心ですか?

蛯名 無心ですね。なんか考えてるときは全然ダメなんですよね。ああ見えて、ライヴは楽しい部分もあるんですよ(あまりに激しいパフォーマンスのため、蛯名は息も絶え絶えになる)。歌うことは気持ちいいし、みんな楽しんでくれてるみたいだから。今回の作品には、そういう雰囲気も全部入ってると思う。だから、聴く人にも伸びやかな感じが伝わるんじゃないですかね。

――確かに……ただ、歌詞としては最後、だいなしになって終わるという(笑)。

蛯名 (笑)。最後だいなしにしちゃって、また始まるみたいな。結局、いつまで経っても完成はしないんだろうな、っていうのはあるんですよね。今回の作品としては納得してるけど、またさらにこうなりたいなっていう欲はもちろんあるし、まあ、これからもそうやって、完成しないままやってくんだろうな、っていうのはありますね。

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掲載: 2009年01月15日 18:00

更新: 2009年01月15日 18:50

文/土田 真弓