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インタビュー

THE QEMISTS


  ニンジャ・チューンと契約するなり、いきなりコールドカット“Everything Is Under Control”のリミキサーに大抜擢。ロラン・ガルニエをして〈とんでもないモンスターだ!〉と言わしめ、各地でヘヴィー・プレイの嵐に。さらに、〈レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン+ドラムンベース〉という形容がぴったりくるゴリゴリのギター・リフが炸裂した100G超えの圧殺ロック・チューン“Stompbox”が大ヒットを記録。〈ニンジャ史上、もっとも派手でロックなアーティスト〉〈ドラムンベース・シーンの神の子〉〈ブライトンの暴君〉として、シーンの台風の目となっている3人組バンド、ケミスツ。そんな彼らが、ついに待望のファースト・アルバム『Join The Q』を完成させた。バンドの成り立ちをドラマーのリオン・ハリス(以下同)はこう語る。

「10代の頃からバンドをやっていて、他にもメンバーがいて出入りを繰り返してたんだけど、僕ら3人は常にバンドのメインだったね。その後スタジオを作ってからはプロダクションに力を入れるようになった。同時に前からDJで使っていたドラムンベースを作るようになって、ロックとの距離がだんだん近くなり、あらゆる音楽を採り入れる現在の僕らの音楽が出来たんだ」。

 最新シングル“Lost Weekend”で元フェイス・ノー・モアのマイク・パットンを起用するなど、彼らの音楽は80年代後期から90年代初頭にかけて世を席巻したミクスチャーを含むオルタナティヴ・ロックの影響を強く感じさせる。

「いちばん影響を受けたのはニルヴァーナとかレッチリ、レイジとか90年代のロックやグランジで、彼らを聴いてライヴでのサウンドと同じくらいCDで表現するサウンドも大切だとわかった。でも、僕らがドラムンベースにハマった98年頃って、ロックのライヴでパーフェクトなサウンドを聴くのは難しかったんだ。代わりにレイヴやクラブに行くとそれと似たエネルギーを感じ取ることができた。あの時代から、僕らはすべての音楽が同じエモーションを持っていることに気付きはじめたんだと思うな」。

 ペンデュラムや最近のエレクトロ系のバンドによるハイブリッドなミックス感とは一線を画す、ケミスツのゴツゴツとした骨太なミックス感。それは90年代USミクスチャーの影響をUKの音楽文化のなかで再定義する、ある種のオールド・スクールな魅力を大事にしたことで成立している。

「いいとこついてると思うよ。実際にプロダクション面で言えば、USからの音楽にいちばん大きな影響を受けていると思う。でも、ドラムンベースにしろダブにしろUKから生まれていて、僕らはそれを繋げているような感覚なんだ。音楽っていうのはいろんな場所から出てきて変化する。僕らはそれをできるだけイコールに聴くことを心掛けてるんだよ。日本だってそうじゃない? Plustech squeeze boxとか最高だと思うよ」。

 彼らの言葉通り『Join The Q』はヴァラエティーに富んだ作品だ。ジェナGが歌う“On The Run”やワイリーを起用した“Dem Na Like Me”、TVCMでお馴染みの“Montague And Capulets”をサンプリングした“Got One Life”などダンスホール・レゲエやヒップホップを巧みに取り込んだトラック、荘厳なシンセを織り込んだ超絶ハイパーなドラムンベース“S.W.A.G.”“The Perfect High”、クレヴァーで求道的なプロダクションから生まれた火の玉のような制御不能の楽曲たち──〈超新星〉というプレッシャーを軽く弾き返し、月にスタンドインさせるかのような、凄まじいアルバムの登場である。

「音楽の明るい部分や暗い面、エネルギー、楽しさ、悲しさ、何でも入ってるんだ。僕らはそれらを化学みたいに研究して、いろんなものが混ざった新しいものを生み出す。だからケミスツって名前なんだ。『Join The Q』は僕らの人生や経験、フィーリングが音楽に形を変えて入ってる。これは僕らそのものなんだ」。

 ふたたび加熱するダンス・ミュージックとロックのクロスオーヴァー、その爆心地に堂々と乗り込むケミスツ。既存のロックが物足りなく思える、凶悪な音圧による革命。その圧倒的な火力で、ぜひあなたも消し炭になっていただきたい。

PROFILE

ケミスツ
ダン・アーノルド(ベース)、リオン・ハリス(ドラムス)、リアム・ブラック(ギター)から成るブライトンのドラムンベース・バンド。メンバー各々が13歳だった90年代半ばに結成され、徐々にドラムンベースに傾倒していく。その後、ラップトップ担当2名とDJ2名を従えた現在のライヴ・セットを確立。2004年にデビュー・シングル“React”をリリースする。翌年にニンジャ・チューンと契約して、コールドカットらのリミックスを担当。2006年に“Iron Shirt”、2007年に“Stompbox”、2008年に“Drop Audio”とコンスタントにシングルを発表しながら高い評価を獲得していく。1月28日にファースト・アルバム『Join The Q』(Ninja Tune/BEAT)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年01月29日 14:00

更新: 2009年01月29日 18:12

ソース: 『bounce』 306号(2008/12/25)

文/佐藤 譲