インタビュー

MUNGA


 「知名度が上がったおかげで新たなことに挑戦しやすくなったね。逆に敵も増えたけどな」。

 そう語るのは、現在〈ギャングスタ・ラス〉という前例のないスタイルでレゲエ・シーンを席巻しているシングジェイのムンガだ。彼の特徴といえば、ラスタの信条を守りながらもこの手のアーティストにありがちな民族衣裳ではなく、最新トレンドのファッションを身に纏い、バッドマンの生き様と神への信仰を織り交ぜた独特のリリックを歌い上げること。そんな一見ミスマッチとも思える〈ギャングスタ〉と〈ラスタ〉の融合が、ジャマイカンのハートを鷲掴みにしたのである。もちろんこのある種都合の良い〈イイトコ取りスタイル〉は、敬虔な信者から非難されることもしばしば。しかし、大御所ケイプルトンの下で修行を積んできた彼はれっきとしたラスタマンなのである。その一方で、巷のワルが憧れて止まないバウンティ・キラーからスカウトされた経験も持つのだから、何ともユニークな男じゃないか。そんなわけで、この〈ギャングスタ・ラス〉なるスタイルが決して思いつきから生まれた軟弱なものでないことを、まずは強調しておきたい。

 とはいえ、ラスタも大きく変化したものだ。その精神を基盤に置くルーツ・ロック・レゲエが、81年のボブ・マーリーの死をもってジャマイカン・ミュージックのメインストリームから外れ、時代はダンスホールへと完全に移行。その後、90年代にガーネット・シルクのブレイクと共に巻き起こったラスタ回帰の風潮からふたたび息を吹き返し、ごく自然にダンスの現場へと浸透していったわけだが、まさかギャングスタと結び付くなんて!

 そして2008年末、このラスタのニュー・スタイルを提唱するムンガが、大人気プロデューサーのドン・コルレオーンと共にファースト・アルバム『Bad From Mi Born』を作り上げたのである。ここには〈ギャングスタ・ラス〉としての生き様を誇示した表題曲や“Take My Place”、ジョグリン“Earthquake”など、圧倒的な破壊力を備えたヒット曲がギッシリと収められている。なかでも注目すべきは実験的な音遊びが随所に見られる点で、彼の代名詞ともいえるオートチューン使いもその一例と言えよう。それもこれもドンの仕業かと思いきや、どうやらすべてムンガの雑多な音楽嗜好に起因しているようだ。

「ヴォコーダー・ヴォイスはブーツィー・コリンズからインスピレーションを受けたんだ。俺の趣味さ。もともとロックやヘヴィー・ロックも好きで……例えばリンキン・パークとかな! もちろんヒップホップもよく聴くし、特に2パックやビギー、ジェイ・Zにナズ、スヌープ・ドッグあたりは大好きだね。“Take My Place”はそういう自分の趣味を詰め込んだからこそ、いろんなリスナーに受け入れられたのかもしれねえな!」。

 ちなみに、アルバム中でいちばんのお気に入り曲を訊いてみると、意外にも壮大なドラム・ワークが印象的なラストのミディアム“Prayer”が挙った。

「この曲はルーツ・ロック・レゲエやダンスホールはもちろん、いろんなアイデアをブレンドして国際的に通用するフレイヴァーを作り出したものなんだ。まずリリックを先に書いて、ドンがビートを作ったのさ。歌詞の世界観をイメージしながらな。ケテ・ドラムを土台にゆったりと作られたワンドロップ・トラックで、作品を締め括るには良い曲だぜ! 最高の出来だろ?」。

 ……と、かなりご機嫌な様子だが、本作に収録された“Auto Tune”でも激しく攻撃しているライヴァルのチーノに話が及ぶと、「そんな奴は知らねぇ」と一蹴。すぐにギャングスタとしての一面を覗かせる。流石は〈ギャングスタ・ラス〉の先駆者、その言動には微塵のブレも感じさせない。

 最後に次作の予定を尋ねると、「またすぐに出してやるよ!」と頼もしい答えを返してくれたムンガ。次は何をしでかしてくれるか……いまは知る由もないが、少なくともこの男がしばらくシーンをリードし続けることだけは確かなようだ。

PROFILE

ムンガ
本名ダミアン・ローデン。ジャマイカはキングストン出身のシングジェイ。高校在学中の97年に地元のコンテストで優勝し、本格的な音楽活動を開始。ほどなくしてケイプルトン主宰のレーベル、デヴィッド・ハウスのスタッフに見初められてスタジオに出入りするようになる。その後、バウンティ・キラーからアライアンス・クルー入りを勧められるも独り立ちし、2005年にドン・コルレオーンからシングル“Bad Like I”を発表。2006年に入ると“Earthquake”“No Not At All”など7インチ・シングルが立て続けにヒットを記録し、知名度を上げていく。このたびファースト・アルバム『Bad From Mi Born』(Don Corleon/KOYASHI)を日本先行でリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年02月12日 13:00

更新: 2009年02月12日 18:05

ソース: 『bounce』 306号(2008/12/25)

文/カシワサン