インタビュー

HANDSOMEBOY TECHNIQUE

精緻なセンスを駆使するサンプリング職人から至高のポップ・アルバムがふたたび届けられた。確実に胸に迫る、本当の美しさはここにある!


  HALFBYらを擁する京都のレーベル=SECOND ROYALより登場。メロトロンからマイアミ・ベースまでの膨大なサンプリング素材を注ぎ込んだ、パーティー感に溢れる2005年の『ADELIE LAND』で、その才能を国内外に知らしめた森野義貴のプロジェクト=HANDSOMEBOY TECHNIQUE。UKや北欧のメディアにもその編集センスを絶賛された彼だが、ニュー・アルバムの『TERRESTRIAL TONE CLUSTER』はさらに凄いことになっている。

「サンプリングという手法を自分なりに洗練、進化させた〈世界で自分しか知らない音楽の作り方〉と僕は勝手に思っているのですが、それを最大限に用いて、自分の美学に則った音楽を作って、何年後でも聴けるような〈残るアルバム〉になればいいな、とは思っていました」。

 機材を一新し、制作に1年を要したという同作は、サイケ期のビートルズを連想させる“NEW SPELL AND DUST”で幕を開け、膨大なサンプリング素材に緻密な編曲を施した、マジカルなトータル・アルバム。ソフト・ロック、B級ディスコ、ネオアコ……元ネタから記号を拾い上げることもできそうだが、それ以上に、統一感のある仕上がりに驚く。

「実は最初はアルバムの曲順通りに曲作りを進めていこうとしてたんですが、2曲目で断念して(笑)。だから、1曲目だけは最初に〈オープニング曲を作ろう〉と思って完成させた曲なんですけど、それ以外はバラバラというか、ほぼ全曲がけっこう同時進行でしたね。実際手を付けていなくても、脳内では作ってたり。全体の統一感というのはほとんど意識せずに作っていました」。

 また、半数を占めるヴォーカル曲がアルバムの全体像に色彩を与えている。ベルギーよりニコ・ジャコブス、カナダのニンジャ・ハイ・スクール、アイルランドのスキバニーらがMCや歌でゲスト参加。特に北欧の髭紳士、エリアス&ザ・ウィズキッズのエリアスが枯れた美声を披露したフォーキーな終曲は何度聴いても沁みる……。前作ではその編集手腕が光った森野だが、本作で見せたソングライティングの才も特筆モノだろう。

「〈美しい音楽〉を作りたいと思ってます。ハードコア・パンクとかノイズとかでも美しいと思ってしまう曲っていうのはあるし、それは旋律や音の質感とかの問題だけではなくて、純粋さというか……」。

 ディー・ライトの『World Clique』からもうすぐ20年。サンプリングに特化したポップスはもはや形式化しているが、本作はそれを超えて、新しいポップ・アルバムの形を提示していると思う。

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掲載: 2009年03月05日 20:00

ソース: 『bounce』 307号(2009/2/25)

文/リョウ 原田