インタビュー

イルリメ

音作りを楽しむことで、より個性的なサウンドを獲得したイルリメ……ってこの写真の人誰!?


 〈アブストラクト〉や〈エキセントリック〉などと形容をされてきたイルリメが、〈ここまでポップに変わるとは……〉と思われたのが〈5枚目の男〉と血気盛んにラップしていた2007年作『イルリメ・ア・ゴーゴー』。それから2年を待たずして届けられたニュー・アルバム『メイド イン ジャパニーズ』は、音の面でこそ前作から革新的な変化は見られないが、彼がポップ・フィールドで自分を見せようとする意志、音楽業界でサヴァイヴしようとするタフな決意が存分に詰まった作品と言えそうだ。

「昔は個性を出すために、既存の楽器を使わないとかドラムのスネアの音を入れない、みたいなことにこだわっていたけど、『www.illreme.com』を出した2004年あたりから、明るい音楽をやりたくなって。であればもっと素直なほうがいいんじゃないかと(笑)。歌詞もわかりやすいほうが評判も良くて。前作をデビュー作だと思ってほしいくらい」。

 殻を破って新たなアイデンティティーを手に入れるべく彼はそれまでの個性を封じ、歌を解禁した。そんな前作と比べても、新作はイルリメ史上もっとも突き抜けていて風通しが良く、そしてどのアーティストにもない超オリジナルなサウンドを獲得している。カレーのレシピから普遍的なコミュニケーションの面倒臭さを奔放に歌った“カレーパーティー”、やけのはらなどと結成したバンド=younGSounds(先日脱退)での活動も「少なからず影響したかも……」と語るディープ・ハウスとロックンロールを衝動で橋渡しした“爆弾ソング”、そしてシンガー・ソングライター的な境地で沁みさせる“たれそかれ”――表面的な〈個性的〉から脱し、より幅広い層にイルリメが何者であるのかをしっかりと音で伝えてみせたのだ。表題からも感じられる日本的な意匠も、自身をアイデンティファイするものとして有効だ。

 そして、彼がインタヴュー中に何度も口にしていたのが〈楽しい〉という言葉。

「ヒップホップって結局リズムの音楽なんです。ループで作っても、構成が2つとか3つで終わっちゃう。作り込みすぎるとラップに耳が行かなくなるし。ロックとか4つ打ちはパターンをいっぱい作れるから楽しいんですよ。いまはアレンジの勉強もしてて、山下達郎さんの曲を参考にして聴いたりするのも楽しい」。

 ライヴをすること、ドラムを叩くこと、ギターを弾くこと……それらすべてがいまのイルリメにとって楽しく、新鮮なのだとか。自身の過去を投影しながら、フレッシュであり続けようとする姿勢は、どこからどう見ても正しくて、どう考えてもフィジカルだ。

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掲載: 2009年03月05日 20:00

ソース: 『bounce』 307号(2009/2/25)

文/ヤング係長