WOUTER HAMEL
甘いマスクに甘い歌声。まるで毎日がヴァレンタインデーみたいなジャズ・シンガー、ウーター・ヘメルが、セカンド・アルバム『Nobody's Tune』を完成させた。前作『Hamel』は母国オランダをはじめ、日本でも大ヒットを記録したが、前作に続いてベニー・シングスをパートナーに選んだ新作は、〈ジャズ〉というイメージからよりいっそう軽やかに踏み出したグッド・ソングの詰め合わせ。ウーター自身、今回のアルバムにはかなり満足しているようだ。
「今回は特にコンセプトを決めたりしないで、ベニーと僕はただ素敵なサウンドを作って、良い曲を書くことだけを追求した。今回はソングライターとしてちょっとだけ成長できたと思っているし、自分のスタイルをグンと開拓できたかな、と感じてるんだ。それに前作は自宅のキッチンやバスルームで録ったんだけど、今回は新しく建てたスタジオで全編をレコーディングした。ヴィンテージのマイクや機材をいろいろ使ったよ。たくさんの思いをこのアルバムに詰め込んだから、それがみんなにちゃんと伝わればいいな」。
作詞作曲はウーター一人でこなし、アレンジはベニーが担当。アコースティックな質感を大事にしながらも、いまの空気を取り込んだ洗練されたサウンドメイキングは、ベニーと打ち合わせを重ねながら磨き上げられていった。
「今回はあまりサンプリングとかビートを使わないようにしたんだ。前作ではビッグバンドのサンプリングとかが聴こえてきただろ? でも今回は、もっとアコースティックでリッチなサウンドを追求してみた。いろんな種類のアコースティック楽器を試したんだ。だからアルバムを聴く時には、どんな変わった楽器が使われているかにも耳を凝らしてほしいね」。
実のところ、週5日のライヴをこなしながらのレコーディングはかなり大変だったらしいが、そんななかでも彼は、曲作りにもサウンドにもこだわり抜いた。使われた楽器もさまざまなら、収録曲もヴァラエティーに富んでいる。
「フォークっぽいのからバラードまで、今回のアルバムにはいろんなテイストの曲を入れたんだ。例えば“Sir Henry”はスティールパンを使って、ちょっとカリビアンな雰囲気のある曲にした。ギターのロリー・ロンドのお父さん、ヘンリー・ロンドがスティールパン奏者で、この曲では彼に演奏してもらったんだよ! だから曲のタイトルも“Sir Henry”なのさ(笑)」。
曲ごとにシーンがあり、ドラマがある。短編小説集、というより、ショート・フィルムみたいにカラフルな雰囲気も感じさせるが、もちろん、それぞれの物語の主人公はウーターのシルキーな歌声だ。タイトル曲“Nobody's Tune”には、彼のシンガーとしての強い決意が込められている。
「僕はカヴァー・ソングやスタンダードを歌うだけのシンガーにならないようにしようって決めたんだ。もちろん、世の中にはエラ・フィッツジェラルドとかビリー・ホリデイとかが歌ったような、あまりにもたくさんの素晴らしいスタンダード・ナンバーがあるけれど、僕は決して彼女たちみたいに上手くは歌えないってことがわかった。だから僕だけにしか歌えない、自分だけのオリジナル・ソングを歌うことに決めたのさ。〈誰にも左右されない、誰のものでもない僕の歌を歌うんだ〉って、歌詞のなかで言っているんだけど、それが“Nobody's Tune”の意味なんだ」。
5月にはフル・バンドでの来日コンサートも予定されているウーター。新作、そしてライヴを通じて、〈誰にも歌えない〉ウーターだけの美しい歌声をたっぷり堪能できるはずだ。
PROFILE
ウーター・ヘメル
77年生まれ、オランダはハーグ出身のジャズ・シンガー・ソングライター。メル・トーメやフランク・シナトラに憧れてシンガー活動を始める。2005年に本国のヴォーカリスト・コンペティションで優勝。以降はTV番組などのメディア露出や〈North Sea Jazz Festival〉出演で脚光を浴びる。翌年にドックスと契約を果たし、ベニー・シングスとレコーディングを開始。2007年にリリースしたデビュー・アルバム『Hamel』が本国でゴールド・ディスクを獲得するヒットとなり、日本や韓国でも高い評価を得る。2008年には日本独自盤としてミニ・アルバム『Live At Home』を発表。来日ショウケースを経て、3月4日にセカンド・アルバム『Nobody's Tune』(Dox/Pヴァイン)をリリースしたばかり。