インタビュー

MAVADO


  マヴァード。ここ数年、ジャマイカでいちばんキテいるシンガーだ。〈世間を騒がせ、かつ人気を集めるのはDJ〉というダンスホール・レゲエの定石を覆し、シンガーながら島内ではヴァイブス・カーテルとの壮絶な舌戦を闘い抜き、同時にヒップホップ界からラヴコールがひっきりなしに届く。昨年のスマッシュ・ヒット“On The Rock”はジェイ・Zがリミックスを勝手に作り、Gユニット、フォクシー・ブラウン、ワイクリフ・ジョン、バスタ・ライムズ、アンクル・マーダとも共演を果たした。

「全部光栄だったし、興味深い経験だったね」と、マヴァード。ただし、次の共演の話となると、「いまあちこちからオファーがきていて、ちょっと大変なんだ。俺は全部の話にホイホイ乗るようなアーティストではない。タイミングが合って、曲としても筋が通っている話だったら、もちろん受けるけれど、何でもかんでもやって、自分を安売りをするのは嫌だね」ときっぱり。

自身のセカンド・アルバム『Mr. Brooks ...A Better Tomorrow』もゲストでいっぱいにするのは可能だったが、「俺の苦闘を反映して、きっと明日は良くなるという個人的なコンセプトに合わないから、入れなかった」と話す。ブルックスは、マヴァードの本名。ファースト・アルバムも〈The Symphony Of David Brooks〉との副題が付いていた。強烈なキャラクターの持ち主だが、「マヴァードとデイヴィッド・ブルックスの間に、差は何もない。俺は誰かを演じたりしない」そうだ。

〈ギャングスタ〉を標榜して人気が出た多くのアーティストのなかで、マヴァードは誰よりもこの言葉に対して高い代償を払っている。USやヨーロッパ、そして日本での評価は高いものの、リリックが暴力的だとしてジャマイカやほかの西インド諸島で〈お上〉の目の敵にされ、入国拒否やはたまた投獄の憂き目に遭ったのだ。デイヴィッド・ブルックスに対する最大の誤解は何か、尋ねた。

「正直に言うと、いまの時点でデイヴィッド・ブルックスに対して誤解しかないから、もうその話はしたくもないんだ。最終的に、音楽で伝えるしかない。もう気にもしてない。自分らしくしているだけだよ」。

とはいえ、トラブル続きの状態を楽しんでいるわけでも、パブリシティーに使っているわけでもない。その証拠に、本作は以前よりも〈祈り〉を唱えるリリックが目立つ。

「俺の神はジャーだ」とも。ドレッド・ロックスを揺らさずとも、〈ジャー・ラスタファーライ〉を叫ばずとも、マヴァードはラスタファリアンなのだ。

「どんな苦境に立たされても、彼が見守ってくれているのはわかっているから、大丈夫だ。いい曲を作るために、俺は全力で祈る」。

本作のプロダクションは、スティーヴン・マクレガー、ダセーカ、ジャミーズのジョン・ジョン、ベイビーGら、ジャマイカのトップ・プロデューサーが担当。彼らのバックアップを得て、〈マヴァードの新曲=ダンスホールのトレンド〉となっている。シーンのフロント・ランナーである自覚はあるのだろうか。

「もちろん。誰が何と言おうと事実は事実だし、現実は現実だ。2005年から2009年までに俺が成し遂げたことは誰にも否定できない。それと同時に、いろんな目にも遭ったけれど、それで強くなれたとも自負している」。

〈ガリー・ゴッド(ゲットーの神様)〉の異名を持つマヴァードは、自分らしく素のままでダンスホールをネクスト・レヴェルに持っていく。2009年も、この男の年になりそうだ。

PROFILE

マヴァード
81年生まれ、ジャマイカはキングストン出身のレゲエ・シンガー。祖母の勧めで5歳の頃から教会で歌いはじめる。2004年にダセーカのプロデュースによるファースト・シングル“Real McKoy”がヒットを記録し、直後にバウンティ・キラー率いるアライアンス・クルーに加入。2007年にファースト・アルバム『Gangsta For Life -The Symphony Of David Brooks』を発表。2008年にはGユニット“Let It Go”やフォクシー・ブラウン“We're On Fire”への客演を通じてUSでも人気を獲得。一方、本国でもヴァイブス・カーテルと長きに渡って抗争を繰り広げるなど大きな話題を集める。このたびセカンド・アルバム『Mr. Brooks...A Better Tomorrow』(VP/ビクター)をリリースしたばかり。

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掲載: 2009年04月09日 16:00

更新: 2009年04月09日 17:33

ソース: 『bounce』 308号(2009/3/25)

文/池城 美菜子