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遊び心を織り交ぜた、最高にカッコ良くて〈掴まれる〉アルバムが完成! ついに彼らにもロックンロールの魔法がかかった!?
「いま、バンドが動いている感じを伝えたかった」(五味岳久、ヴォーカル/ベース:以下同)――そんな意味を込めて名付けられたニュー・アルバムのタイトルは『GO』。そうだ、lostageは常に前へ、前へと歩みを進めている。グランジ、エモ、ハードコア、ポスト・パンクなどを血肉化した重厚なオルタナティヴ・ロックでメジャー・フィールドに斬り込んだ、2007年作『DRAMA』。ギタリストの脱退/新加入を経て格段に開かれたサウンドへとシフトした2008年のミニ・アルバム『脳にはビート 眠りには愛を』。そして、本作。前作から半年という短いタームで届けられたニュー・アルバムにおいて、彼らは早くもネクスト・フェイズへ突入している。
「新しい扉を開くというか、いままでになかったものを見せていきたいなっていう気持ちはありました。開けた感じが自然に出たって言ったら嘘かもしれないですけど、バンドが結構、そういうところを出しやすい雰囲気になっていたと思います。初めて聴いたときに曲に掴まれる感じ、すぐ入っていける感じを出したかったですね」。
新たに開かれた扉とは、まず第一に「前作の“母乳”でMASS OF THE FERMENTING DREGSのなっちゃん(宮本菜津子)に参加してもらったことが、主旋律の引き立たせ方を具体的に考えるきっかけになった」という、ヴァリエーション豊かなコーラスの導入(ギター・ポップ然とした“SUNDAY”ではパパパ……なんてコーラスまで飛び出したり!)。そして第二は、「ベタというか、王道的な感じになってるのが、いまの僕にとっては新しかった」という豪快なギター・フレーズや曲展開。獰猛にうねる不穏なグルーヴのなかに配されたそれらのフックは、聴き手の耳を瞬時に引き寄せるキャッチーさを持つと同時に、楽曲の破壊力も強烈にビルドアップさせている。なかでも五味が「ハード・ロックのネタ感」と表現する、いわゆるロック的な〈お約束〉の採り入れ方がユニークだ。
「ハード・ロックって、やっぱりどっからどう見ても〈ネタ〉じゃないですか。ロングヘアで、ギター・ソロもすごいあって、ライト・ハンドになって、とか。アルバムを作っていた頃、ちょうどみんながツェッペリンとかディープ・パープルとかエアロスミスとかを聴いてたんですけど、何でカッコイイんやろっていったら、やっぱりわかりやすいし、エンターテイメントやしっていうところで。そもそも好きっていうのは大前提にあるんですけど、そういうものを笑えるぐらい楽しんでやろうって。だから今回は〈ここでギター・ソロになる〉とか〈こういうユニゾンがあって〉とか、カッコイイかどうかというよりは、こうきたらおもしろいかどうかみたいな、ネタとしてのハード・ロックを採り入れた感じですね」。
不敵なベースラインに腰を持っていかれるエクストリームなヘヴィー・ロック“SF”、「メンバー4人でレディオヘッドのライヴを観に行った後、〈良かったよな〉とか言いながら作った(笑)」という、空間的なギターがダークでサイケデリックな酩酊感を誘う“あめんぼ”、シャッフル・ビートを初披露したブルージーな“路地裏”、ネタどころではない凶暴なリフでアグレッシヴに挑発する“CAT WALK”“点と線”など、シュールな言葉の羅列で五感を刺激する歌を芯としながらも、多彩な楽曲が揃った本作。その吸引力がどれほどのものか――それを表現するのにぴったり当てはまる発言がある。〈一発で掴まれる音楽とは?〉という質問に対する五味の回答だ。
「どういう音楽かな……そうですね……(考え込む)……例えばですけど、ニルヴァーナの“Smells Like Teen Spirit”ですかね。あれって始まった瞬間にこの曲だってわかるし、CDやのに空気が変わる感じとかが伝わってくる。それが掴みだと思うんですよね。イントロやメロディーがどう、とかだとたぶん説明できないことなんでしょうけど、その曲にしかない魔法みたいなのがあると思う。自分が掴まれるのはそういう魔法がかってる音楽ですね」。
ロックンロールの魔法を信じたくなるアルバム。それが『GO』だ。
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