インタビュー

毛皮のマリーズ


  毛皮のマリーズ――その名を聞いて思い浮かべるのは、ズバリ天井桟敷の舞台? それとも轟音ギタリストを擁する伝説のバンド=裸のラリーズ? それともシングル1枚で終わった悲しきGSバンド、ザ・ガリバーズに筒美京平が贈ったガレージ・クラシック“赤毛のメリー”(先ごろ16年ぶりにアルバムを発表したA.K.I. PRODUCTIONSの93年作『JAPANESE PSYCHO』収録の“素晴らしき日本野球”のサンプル・ソースとしても有名)? いずれにしても、遠からず近からず。妖しくもエネルギッシュ、異端でありながらもポップなキャラクターを持つその音楽が、ここ最近のライヴハウス・シーンを騒がせているのは確かだ。

「親がビートルズ好きで、ちっちゃい時から家でビートルズがかかってたのがやっぱデカイですかね。音楽に目覚めた頃には〈ビートルズのような音楽〉っていうのを基準にいろいろ聴いてたように思います。エレファントカシマシとかサニーデイ・サービスとか、渋谷系みたいなものも聴いてましたし、そこからルーツをどんどん遡るようになって、オカンが好きで集めていたザ・タイガースのレコードを聴いて〈こんなんもアリやなあ〉って思ったり。そこからキンクスとかザ・フーとか……中学の時は音楽の話ができる友達も少なかったんで、そういうことをコソコソやってましたね」(志磨遼平、ヴォーカル:以下同)。

 そんな彼らが、このたびサード・アルバム『Gloomy』をリリースする。〈陰鬱〉を意味するタイトルに、これまで彼らをウォッチしてきたリスナーなら思わず〈どうしちゃったの?〉と勘繰るところだが、あながちそれは見当違いでもない。アーリー・パンクやグラム・ロックを彷彿とさせ、型破りのワイルドなパフォーマンスでブイブイ言わせてきたマリーズが、ここでは〈歌〉を手にしようとしているのだ。

「聴いてうっとりとする音楽をやりたかったんですよね。アンダーグラウンドというものも好きなんですけど、そこでやり続けていきたいのかバンドをちゃんと生業にしたいのかって考えたら、こういう結論になって。それこそアンダーグラウンドで伝説になっても、ライヴハウスでギャーッ!て言われても、隣に住んでる人は全然知らなかったりするわけですよね。そういうのもどうかなあって1年ぐらい考えてたら、一時期なんにもできなくなっちゃったんですよね。そういう時にビートルズのことを思い出して、〈そうや、ビートルズになりたかったんや!〉って。そこでヲタク気質が出て、ビートルズの録音技術について述べてある本を買ってきたりして――いままでは音楽を精神論だけでやってたと思うんですよね。ロックンロールだぜ!みたいな(笑)。そういうのって、ちょっとでも萎みかけると、音楽をちゃんとやってなかったんだなっていう引け目を感じるようになるんですよね。目に見えるものがないっていうことがすごく悔しくなってくるんですよ。〈オマエよりオレのほうがロックや!〉っていう水掛け論とか、〈ひとりでも自分の信念を理解してくれる人がいたら満足です〉みたいなキレイ事はもういいやって。そういうコンプレックスから逃れるために、今回は精神論から技術論に走ったんですよね。何年も続けられている人は、ちゃんと音楽的な裏付けがあるからだと思うし、やっぱ、続けるということはひとつの真理だと思うんで、自分らもちゃんとやんなきゃなあっていう、その第一歩ですね」。

 並々ならぬ愛情と純情、そのほとばしりによって彼らにしかできない〈ビートルイズム〉が注入された『Gloomy』。ビートルズ的に締め括るならば、このニュー・アルバムは彼らにとっての『Rubber Soul』、ということになるだろう。

PROFILE

毛皮のマリーズ
志磨遼平(ヴォーカル)、越川和磨(ギター)、栗本ヒロコ(ベース)、富士山富士夫(ドラムス)から成る4人組。2003年に東京で結成。2005年より現在のメンバーで再始動する。2006年にファースト・アルバム『戦争をしよう』、翌2007年に2作目『マイ・ネーム・イズ・ロマンス』をリリース。おとぎ話やTHE BAWDIESとのツアーなどを通じてライヴ・パフォーマンスが話題となり、全国的に認知を広める。2008年にはミニ・アルバム『Faust C.D.』、12月にシングル“ビューティフル/愛する or die”を発表。〈ロッケンローサミット〉〈MINAMI WHEEL〉〈COUNTDOWN JAPAN〉などへの参加でも注目を集めるなか、4月8日にサード・アルバム『Gloomy』(JESUS)をリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年04月16日 07:00

更新: 2009年04月16日 17:25

ソース: 『bounce』 308号(2009/3/25)

文/久保田 泰平