FLEET FOXES
フリート・フォクシーズのファースト・アルバム『Fleet Foxes』を、まだほとんど情報がなかった昨年のリリース当初に店頭で手に取った方の多くは、さまざまな人々の描かれたセピア色のジャケットにまず目を奪われたことと思う。そして、それがピーテル・ブリューゲルという16世紀に活躍したフランドルの画家による作品「ネーデルランドの諺」だということを知っていた人も、まったく知らなかった人も、実際に音を聴いてみて、バンドの持つ世界とそのジャケットが見事にシンクロしていることに驚かされたはずだ。彼らの音には、地に足を着けて毎日を送る田舎の人々の生活、その表と裏が確かに表現されている、と。
多数の海外音楽誌において2008年度のベスト・ディスクの1枚に選ばれた、そんな『Fleet Foxes』がようやく日本でもお目見えすることとなった。アルバム・リリース後、ソロ作『Minor Works』を出したばかりの地元のシンガー・ソングライター=ジョシュ・ティルマンをメンバーに迎え入れるなど、フリート・フォクシーズ自体、まさに音のなかに生きる市井の人々の如く日々脈動しているわけだが、もともとの出発点は遡って3年半ほど前のこと。リーダーでヴォーカルのロビン・ペックノールド(発言:以下同)を中心に結成された。
「シアトル出身の僕らにとって、サブ・ポップは小さい頃から常に影響を受けていた偉大なレーベルなんだ。だから真っ先にデモ音源を送ったよ。あっという間にリリースしようってことになったけどね。最初は60年代の音楽が好きで、ビーチ・ボーイズやゾンビーズ、あとはボブ・ディランやニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、クロスビー・スティルス&ナッシュなんかもよく聴いていた。同年代の友達とはそこが確かに違ったね」。
とはいえ、彼らの音楽には〈ロック臭〉がほとんどしない。かといって、アルバムのサンクス欄に列挙されているような、ヴァン・モリソンやコリン・ブランストーンといったシンガー・ソングライターの系譜ともあきらかに違う。あるのは30~40年代近辺のアパラティアン・フォークや、作者不詳の伝承歌のような感触。そう、ハリー・スミスが編纂した歴史的ボックス・ セット『Anthology Of American Folk Music』の延長線上にある土着的なフォークロア指向が強く、そこにキリスト教的な思想を漂わせてもいる。とりわけゴスペルやバロック音楽の輪唱を採り入れたようなコーラスに顕著だ。
「自然とこういう音楽になったんだ。当初からキリスト教的な匂いのする音楽を作ろうと思ってたわけではないんだよ。僕らは全員トラディショナル・ミュージック好き。アイルランドや日本の音楽も好きで、それぞれの国の伝統的な楽器で作られた伝統的なメロディーは本当におもしろいと思う。今回のアルバムでも、可能な限りいろいろな楽器を使うことにトライしたね」。
歌詞においては、森、山、川、谷などの言葉が多くあしらわれ、特定の名前を持つ人物がまるで寓話や昔話の主人公のように描かれている。
「あの絵は見た目の美しさがありながら、その実、人間の内面にある本質のようなものが描かれている。その二面性みたいなものに惹かれたんだ」と語るブリューゲルの作品のように、フリート・フォクシーズの音楽も決してのどかで平和な空気に終息することはない。かつてジョニー・キャッシュらが描いたようなアメリカン・ゴシックの持つ血生臭いダークサイド。昨年のリリース以来、『Fleet Foxes』が人々の心にジワジワと浸透しているのは、人間がそもそも持つそんな光と影を、作品を通じて感じられるからなのかもしれない。
PROFILE
フリート・フォクシーズ
ロビン・ペックノールド(ヴォーカル/ギター)、スカイラー・シェルセット(ギター)、キャシー・ウェスコット(キーボード)、クリスチャン・ワーゴ(ベース)、ジョシュ・ティルマン(ドラムス)から成る平均年齢23歳の6人組。2006年初頭にシアトルで結成され、直後に自主でファーストEP『Fleet Foxes』を発表。地元を中心に精力的なライヴ活動を行うようになる。2008年4月にはサブ・ポップからセカンドEP『Sun Giant』をリリース。続いて6月にファースト・アルバム『Fleet Foxes』(Sub Pop/TRAFFIC)を発表。同作はRolling Stone誌やSPIN誌をはじめ、数々のメディアで年間ベスト・アルバムに選出されるなど話題を集め、4月8日には日本盤がリリースされたばかり。