THE BAWDIES
その歌声がラジオから流れたとき、誰もが黒人シンガーであることを疑わなかった――というのは、60年代に活躍した白人ソウル・デュオ、ライチャス・ブラザーズの逸話だが、似たような出来事を21世紀の日本で体験できるとは思わなかった。THE BAWDIESのヴォーカル=ROYの〈黒い〉歌声だけを聴いて、その主が20代半ばの青年であり、純粋な日本人であり、可愛らしささえ感じさせる面立ちであるなんていうことは想像できないだろう。日本のロックンロール・バンドの歴史を見渡してもそうはないライチャス(正当)なソウル・フィーリング。ありそうでなかった、ではなく、リズム&ブルースやソウルに憧れた多くの日本人シンガーが〈できない〉と諦めていたことをやってのけているのが、このTHE BAWDIESだ。
「高校の終わりぐらいにレコード屋さんでたまたま流れていたソニックスを聴いて衝撃を受けたんです。自分たちの時代にはない音楽だったし、古いとも思わなかった。それから同時代のビート・バンドを聴き出して、さらに彼らのルーツとされている音楽を漁りはじめたとき、リトル・リチャードを聴いて〈これだ!〉と。それがきっかけでバンドを組んで、そういった音楽のコピーを始めたんですけど、ちゃんと音を拾ってるつもりでも、なんか違うものになる。まあ、その時点でそれをオリジナリティーとしてやっていくのもアリだったんでしょうけど、そうしたくなかったんですね。やっぱり、ちゃんと理解して吸収したうえでなにかを生み出す、そこで初めてオリジナリティーっていうものが生まれると思ったんで、吸収するまではオリジナルを作るのはやめようって。この歌声も、2年ぐらいかかって無理なく出せるようになってきて……そう、コロッケさんは英語が話せないのにネイティヴの人のモノマネができるっていう話を聞いて、それだったら自分も一所懸命モノマネしてたらできるんじゃないかって、ずっと信じ込んでやってたんですよね」(ROY:以下同)。
すべてのオリジナリティーはコピーより生まれる――かのフランク・ザッパの名言を徹底的に体現していった彼らは、2004年の結成以来、精力的なライヴ活動を展開してきたわけだが、そんな姿が注目を集めるのにさほど時間はかからなかった。50年代、60年代のリズム&ブルースやソウル、ビート・グループのサウンドを下敷きにしながらも、現代のダンス・ミュージックにも通じる〈人の本能を昂ぶらせる〉グルーヴ感は、ROYがソニックスに打ちのめされたのと同様、イマドキのリスナーにも無性にフィットしたのだろう。そんな彼らがこのたび、初のメジャー作品となるアルバム『THIS IS MY STORY』を届けてくれた。
「本来、ロックンロールはダンス・ミュージックであるべきだと。昔のまんまをやったら、時代によって受け入れられる/られないっていうのは多少あると思うんですけど、そこに僕らの感性を通せばいまでも伝えられるかなって。今回のアルバムでは、ソウルはこうだからこうじゃなきゃいけないみたいな理屈とかを抜きにして、自然に楽しみながら作ったような感じです。いままでは意識的にルーツ・ミュージックに寄っていった部分もあるんですけど、寄らずとも身に付いたものは自然に放出しようって。その結果、イマっぽさっていうのがすごく出たと思う。たとえば4つ打ちっぽい曲(“LEAVE YOUR TROUBLES”)があったりっていうのは、いまを生きてる僕らだからこそ思いつくことだろうし。それと、ライヴをCD化するような感覚でいままではやってきたところもあるんですけど、今回はメジャーっていうこともあるし、いろんな人に聴いてもらえるチャンスがあるわけだから、作品としてどうかっていうものを残したかった。勢いだけで録らず、一曲一曲大切に」。
PROFILE
THE BAWDIES
ROY(ヴォーカル/ベース)、JIM(ギター)、TAXMAN(ギター)、MARCY(ドラムス)から成る4人組。2004年に結成され、都内を中心にライヴ活動を開始。2006年にファースト・アルバム『YESTERDAY AND TODAY』をリリース。直後に行った初の全国ツアーで注目を集める。2007年にはオーストラリアで初の海外ツアーを行い、同年〈フジロック〉のROOKIE A GO-GOに出演。2008年にセカンド・アルバム『Awaking of Rhythm And Blues』を発表。7月と11月に行った自主企画イヴェント〈FREE FOR ALL〉ではthe telephonesやQUATTRO、8ottoなどを招いて話題となる。このたびメジャー・ファースト・アルバム『THIS IS MY STORY』(Getting Better)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2009年05月07日 16:00
更新: 2009年05月07日 17:28
ソース: 『bounce』 309号(2009/4/25)
文/久保田 泰平