YPPAH
イパ。この不思議な名前はハッピー(happy)のスペルを逆から読んだものでして。ニンジャ・チューンからひっそりとリリースされたファースト・アルバム『You Are Beautiful At All Times』が地道な店頭展開の甲斐あってタワレコで2年を超えるロングセラーとなった、秘かな怪物くんであります。これがブレイクビーツとエレクトロニカとシューゲイザーが絶妙に折衷された傑作としてジワジワと評判を広げ、気がつけばいつの間にか生まれていたネオ・シューゲイザーなるシーンからも注目される存在に。
「僕の作品のうちの何曲かはその範疇に当てはまるかもしれないね。そのシーンの影響は確実に受けているわけだから」。
とまあ、本人は至ってクールかつマイペースな感じ。でもやはりシューゲイザーは実際好きなようで、「やっぱりシューゲイザー系の音楽には大きく影響を受けたよ。60年代のロックやエレクトロニカもそうだね。何かが少しブレンドされたエレクトロニック・ミュージックが好きなんだ」とのこと。
そういった影響も採り入れた今回の新作『They Know What Ghost Know』では、ギターのフィードバック・ノイズを前面に打ち出し、その裏ではサイケな五色模様を散りばめるなど、サウンドのロック色をさらに強めています。前作は打ち込み中心でしたが、今回は生楽器をメインに制作したそうで、表現の幅も広がりました。
「前はそういった楽器を全部準備する手段がなかったんだ。それがいちばんの理由だよ。もし前回のアルバムを作っていた時に楽器を使えたなら、あれほどサンプリングを使わなかったと思う。前作を作る時に僕の周りにあったのは、たくさんのレコードとギターだけだった。でも今回は他の楽器もちゃんと用意できたからね。今回もドラム・サンプルを少しは使ってるけど」。
そんな彼のサウンドに顕著なのはファンキーなビート感覚。まあ、もともとヒップホップ好きが高じてスクラッチDJをやっていたことも大きいのでしょう。
「ベースとドラムスは僕の音楽にとって超重要だよ。その2つは僕の音楽の基本であり、骨なんだよね。基盤をしっかりさせてから、他のマテリアルを使い分ければ、しっかりと軸がありながらいろんな方向性に進める可能性を持ったサウンドを作れると思うんだ」。
このへんのリズムに対する捉え方こそ、イパの音楽がクラブ系リスナーにも受け入れられる秘密なのでしょう。彼はどの曲でも変わらない姿勢で太いビートを打ち鳴らしていますが、この一本気なところは地元テキサスでいまも大工を続けているという職人気質(?)にも関係しているのかもしれません。ちなみにそのテキサスって、筆者のイメージ的にはカウボーイやブッシュ元大統領、ケネディ宇宙センターぐらいしか思い浮かびませんが(ゲイシャ、フジヤマと同レヴェルですが……)、周辺の音楽シーンってどんな感じ?
「ごく普通の場所だよ。でも何もないって意味じゃなくて、何でもあるんだけどそれぞれが別に特別じゃないってこと。ラップが好きな人もいればインディー・シーンが好きな人もいるし、ロックやエレクトロも盛んだよ。あらゆるジャンルのものが揃ってる。いちばん人気があるのはアメリカ全体で人気があるような、リアーナとかビヨンセみたいな音楽だよ」。
そのようにさまざまな音楽が溢れるなかで、彼の雑食性もいまなお育まれているようです。
「最近は昔のロックにハマってるんだ。アニマルズとかゾンビーズとかね。新しいもので言えば……ロング・ロスト! 彼らの作品は好きだな。アルバム全部を聴くとすっごく眠たくなるけどね(笑)。共感できるアーティストは……直接的にではないけど、カリブーとは共通点があると思ってる。あとはブロードキャストだね。ジャズっぽくてラウンジっぽいけど、ストレートなジャズじゃなくてサイケデリックな部分もあるんだ。あと、ドラムが素晴らしいんだよ」。
こりゃまたイイ音楽狂っぷりですわ。
PROFILE
イパ
テキサス出身のクリエイター。10代の頃はバンドでギターやベースをプレイするなどロックに親しみ、その後DJとしての活動を開始。ヒップホップとハウスをベースにクラブ・プレイを展開しながら、並行してターンテーブリスト集団であるトゥルースの結成に参加する。2005年にバベル・フィッシュのプロデュースを手掛けて脚光を浴び、ニンジャ・チューンと契約。2006年にファースト・アルバム『You Are Beautiful At All Times』をリリースして高い評価を獲得し、dj KENTAROやゼロdBのリミックスも担当している。来日公演や〈SXSW〉出演を経て注目を集めるなか、ニュー・アルバム『They Know What Ghost Know』(Ninja Tune/BEAT)を5月2日にリリースした。