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インタビュー

あらかじめ決められた恋人たちへ 『ラッシュ』 mao



  あらかじめ決められた恋人たちへのライヴはいつだって、観客を興奮と混沌の坩堝に導いてくれる。ダブやレゲエを主軸に、テクノ~エレクトロニカ、ヒップホップやフォーク、シューゲイザーを吸い込んだボーダレスなサウンドが、ピアニカのセンティメンタルな音色に乗せて放たれた瞬間――会場にはオーディエンスの感情や価値観、思想をも採り込んだ、ひとつのグルーヴが巻き起こっている。ロックという記号が、何が何でも心を突き動かそうとする衝動やアティテュードを意味するのならば、あら恋のサウンドはロックそのものである。

 あら恋のホームグラウンドである渋谷LUSHでの演奏を収録した初のライヴ・アルバム『ラッシュ』は、異色の編成(ピアニカ、ドラムス、ベース、テルミン&パーカッション、PA)で迫る彼らの魅力を巧みに抜き出すことに成功している。抑揚を抑えた鍵盤の響きから一転、リズムとメロディーの残響が一気に畳み掛けられるディープなダブ・トラック“silent way”、アグレッシヴなラガ・ビートが走り抜ける“アカリ”、シューゲイズなノイズが全編を覆い尽くす“寂びる日”をはじめ、バンド用にリアレンジされた楽曲たちの間に子供の笑い声やコンクリートを踏みしめる足音、バスの走行音などの生活音をまぶすことによって、シネマティックな音像を浮かび上がらせているのだ。付属のDVDを含め、本作はあら恋のバンマス・池永正二の求める〈音楽で映画を作りたい〉という指針がはっきりと表出した大傑作である。

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掲載: 2009年07月01日 18:00

更新: 2009年07月08日 18:09

文/森 樹