インタビュー

DAUGHTRY

新たな地平を求めた、バンドとしての旅立ち……


  「アメリカン・アイドル」をきっかけにデビューという幸運を掴んだが最後、良くも悪くもその番組の影はそのアーティストに付きまとうものだろう。惜敗して別のチャンスから這い上がってきたジェニファー・ハドソンのような人を別にすれば、成功し続けているケリー・クラクソンを見てもわかるように以降の活動はその枠組との闘いになる。

 そんななか、いち早くその枠から飛び出したのが、第5シーズンで4位に終わったクリス・ドートリーだ。その姓をバンド名に掲げて2006年11月にリリースされたデビュー・アルバム『Daughtry』は、ジェイ・Zに初週の首位を阻まれ、インキュバスやオマリオンらの週替わりNo.1を経て翌年2月に1位へ浮上(その後もう一度No.1を獲得)。結果的には2007年で最大のセールスを上げたアルバムとして認定された。その500万枚という数字やチャートがすべてではないが、これは番組のファンだけではない支持の広がりを意味するものだろう。少なくとも本国USにおいて、クリスはもはや〈アメリカン・アイドルのクリス〉ではなく、〈ドートリーのクリス〉なのである。

 そんなドートリーがセカンド・アルバム『Leave This Town』を発表した。クリス以外のメンバーは前作の完成後に選ばれた格好だから、「これは新しい始まりの音なんだよ」というクリスの言葉通り、実際には今回がバンドでの初めてのアルバムになるのだ。長いツアーを通じて深まった結束力の証として、アルバムにはクリスとメンバーたちとの共作曲が並び、ライヴを通じてアレンジも磨かれていったという。一方では豪華なソングライター陣も前作同様に関与していて、チャド・クルーガー(ニッケルバック)やベン・ムーディー(元エヴァネッセンス)らがいくつかの曲を共作している。クリス持ち前の歌心と全体のハード&ヘヴィーなトーンを整えたのは、前作同様にハワード・ベンソン。つまりは盤石の体制によって、温かくも情熱的で激しいドートリー・サウンドが鳴らされているというわけだ。

 「曲を聴くたびに育った田舎町を思い出すよ。楽しい日々だったけど、ひとかどの男になるにはこの町を出なきゃいけないって実感してたんだ」とクリスが述懐するのは、彼とギタリストのジョシュ・スティーリーが書いた“September”。言うまでもなく同曲の一節から名付けられた『Leave This Town』というタイトルは、同時にバンドの新しい出発を暗示する言葉である。作品を支配する轟音とクリスの咆吼はその決意の表明なのだ。

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掲載: 2009年08月19日 18:00

ソース: 『bounce』 313号(2009/8/25)

文/出嶌 孝次