インタビュー

ASHLEIGH MANNIX

  トリスタン・プリティマンやコルビー・キャレイ、ヘイリー・セイルズなど、近年〈サーフ・ミュージック〉と呼ばれるシーンから、さまざまな女性シンガーが登場している。大抵それらのアーティストはキラリと光る個性を持っているものの、透明感のある心地良いサウンドを共通項としていた。しかし、このオーストラリア出身のアシュリー・マニックスが作る音楽は、そういったものとは一線を画した存在感を放っている。アコースティック・ギターをベースにしたシンプルなサウンドというサーフ・ミュージックのスタイルを保ちながらも、聴く者を圧倒するようなパワーとソウルがあるのだ。

 小学生の時に授業で習ったギターをきっかけに音楽の魅力と出会い、音楽活動を開始したという彼女。すると瞬く間に話題を呼び、世界的に人気のサーフ・ブランドであるBillabongとスポンサー契約。さらに昨年には、アルバム・デビュー前にも関わらず〈フジロック〉のステージに立ち、多数のオーディエンスを魅了するなどして、すでに熱い注目を集める存在なのである。そんな彼女がファースト・アルバム『Ashleigh Mannix』で、このたび本格的に音楽業界へテイクオフを果たした。昨年発表されたEP盤『My First EP』の収録曲を中心に構成された一枚だ。

 「私は自分のなかから生まれたアイデアを純粋に音楽として表現しているだけなの。テーマとかコンセプトとか考えながらこのアルバムを作っていたわけじゃないわね」。

 そんな本作には軽快なヒップホップ・ビートを敷いた曲から、メランコリックな気分にさせられるブルース、さらにはオーストラリアの広大な大地を思わせるダイナミックな弾き語りナンバーまで、それぞれに異なる輝きを持った楽曲が並べられている。総じて、自由な姿勢で音楽と向き合っている瑞々しい姿が伝わってくる仕上がりだ。

 「私ってロックからヒップホップまでいろんな音楽を聴く人間だから、楽曲には自然とさまざまな要素が入ってしまうというか。それらを決して作りすぎた感じにするのでなく、できるだけナチュラルでシンプルな音色で表現しようと思っているのよ」。

 また歌詞に関しても、恋愛や生き方、さらに音楽への思いまで、アシュリーのナチュラルでシンプルな人生観を反映した内容のものが多い気がする。

 「実はリリックに関しては、私の個人的な見解や感情をダイレクトに表現するというより、ふわっとした表現というか、できるだけ個人的な感情を排除した、普遍的な視点で描いたものが多いの。そのほうがより多くの人に共感してもらえると思ったから」。

 もっとも、共感しやすい歌詞は彼女の魅力のひとつであるが、ギターを前面に押し出したサウンドとヴォーカルに何より惹きつけられてしまう。例えるならばリッキー・リー・ジョーンズのような、雰囲気だけで人生を伝えてしまうような表現力を、このアルバムからは聴き取ることができる。

 「本当に? 私はリッキー・リー・ジョーンズに強い影響を受けているのよ。彼女のような、存在感のあるアーティストになりたいの」。

 サーフィンやいろいろな場所を旅することが好きだというアシュリー。今後もそのライフスタイルをキープしながら、心に響く音楽を作り続けていきたいと語る。

 「これからも楽しんで音楽を作っていきたい。その楽しさがみんなにも伝われば嬉しいな。今回のアルバムにも楽しさがいっぱい詰まっているの! みんなにとって日常のサウンドトラック的な一枚になればいいと思ってるわ」。

 ぜひ、日常をエンジョイできるエネルギーと、彼女のアーティストとしての類い稀な才能を、『Ashleigh Mannix』のなかから見い出してもらいたい。

PROFILE/アシュリー・マニックス

オーストラリアはニューサウスウェールズ出身、現在21歳のシンガー・ソングライター。11歳の時にギターを始め、ほどなくして作曲活動を開始。2005年にBillabongとスポンサー契約を結び、専属モデルとしても人気を集める。その後はサーフ・ショップ主催のイヴェントなどに数多く参加し、2007年には地元ラジオ局のアワードで〈新人賞ポップス部門〉を獲得。2008年4月にファーストEP『My First EP』を本国でリリースし、7月には〈フジロック〉に出演する。今年に入って7月にヘイリー・セイルズとの来日公演を敢行。このたびファースト・アルバム『Ashleigh Mannix』(Ashleigh Mannix/SURFROCK)を日本先行でリリースしたばかり。

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掲載: 2009年08月19日 18:00

ソース: 『bounce』 313号(2009/8/25)

文/松永 尚久