インタビュー

AMANDA BLANK


  女どもは普通に強いし、男連中と同じように弱くもある。そこに余計な幻想を持ち込む必要はないのに、相も変わらず〈男勝りな〉とか〈女だてらに〉とか女性性を規定するような行為は相当アホらしいと思うんですが、彼女のような存在を見るとそんな思いはいよいよ募ってきます。アマンダ・ブランク。M.I.A.やサンティゴールドに続く存在として、そのフレッシュな血脈を追っかけてきた人にはずっと注目されていたに違いないアーティストです。

「私はつまらないゴミじゃなくて、楽しいポップ・レコードを作りたかったのよ」と話す彼女は、その理由を以下のように説明してくれます。

「だって、私は80年代に育って、それまでにない最高のポップスを聴いてきたから。デペッシュ・モードやスミス、ステイシーQ以上のものなんてないでしょ? 地元のアーティストで最初に買ったカセット・シングルはボーイズIIメンだったし、とにかく私はありとあらゆるポップスを聴いてきたのよ」。

 そう語るようにアマンダはフィラデルフィア生まれ。元ヒッピーの両親によって、子供の頃から個性の大切さと独立精神を叩き込まれたそうで、その教えが彼女ならではのセンスに昇華されたことは言うまでもないでしょう。一見すれば知的でキッチュな雰囲気ながら、内実はポップで人懐っこいという個性は、まず2000年代半ばにアーロン・ラクレイトの元で発表したBモア系サウンドのミューズとして注目を集めました。スパンク・ロックらと共に“Blow”や“Supahead”などのエロ曲でイキイキとラップしていた姿は、そのスパンク・ロックやディプロらの導きですぐに表舞台に飛び出していきます。それから数年。スウィッチ&ディプロが組んだメジャー・レイザーをはじめ、サンティゴールドやユクセクらの楽曲に客演し、N.A.S.A.の“A Volta”でシズラと絡んだり、果てはブリトニー・スピアーズ“Gimme More”のリミックスにフィーチャーされたり……という前フリを経て、ようやく登場したのが今回のファースト・アルバム『I Love You』というわけです。

「アルバムを作るにあたって、去年から1年半ほどかけて曲をいっぱい書いてたんだけど、最終的にはパフォーマンスに向いてる曲だけを収録することにしたわ。良い曲だけで20~30曲はあったんだけどね」。

 結果的に11曲に絞り込まれたアルバムは、スカスカ&チープなポスト・パンク調の“Make It Take It”でポップに駆け出してから、リッケ・リーと声を重ねる“Leaving You Behind”でゆったり幕を下ろすまで、およそ34分。全曲のミックスも担当したスウィッチに、XXXチェンジ、ディプロ、件のブリトニーのリミックスも仕掛けたエリ・エスコバーら錚々たる顔ぶれがプロデュースにあたっています。頻繁にツアーを共にしているスパンク・ロックやチャック・イングリッシュ(クール・キッズ)もゲストMCとして参加。このラインナップを見ただけでチェックしたくなる人も多いでしょうが、中身も素晴らしく格好良いのです。M.I.A.系統のダンスホールやスパンキーなブーティー・ベースはもちろん、ハイフィーっぽい“Might Like You Better”があったり、プリンス好きだという話を裏付けるヴァニティ6“Make-Up”のカヴァーがあったり、LLクールJ“I Need Love”をリメイクしていたり。適度に挿入される歌モノの気怠い雰囲気も相まって、まるで〈ラップもやるリズ・フェア〉とでも形容したくなる格好良さなのです。みずからを「完璧主義者」と分析する彼女もアルバムの仕上がりにはご満悦の様子で。

「私はコントロール・フリークなんだけど、XXXチェンジとスウィッチは本当に最高で……私のアイデアを私が望んでいた通りに具現化してくれた。もちろん、彼らならやってくれると思ってたけどね」。

 無条件に格好良くてフレッシュな傑作を作り上げて、このクレイジーでセクシーでクールな存在感がどこまで大きくなっていくのか、今後に期待なのです。    

PROFILE/アマンダ・ブランク

フィラデルフィア出身のラッパー。元ヒッピーの芸術家を両親に持ち、ヒップホップやパンクを聴きながらジャーマンタウンで育つ。2000年代初頭からラップを始め、一方でスウィートハートなるバンドでの活動も並行させていく。アーロン・ラクレイトやスパンク・ロックらとボルティモア・シーンで活動するなかで、2005年にスパンク・ロックとの共演曲“Blow”が脚光を浴びる。以降もプラスティック・リトルやペイス・ロック、テキ・ラテックスらとのコラボを経験し、2007年にダウンタウンと契約。今年に入って、N.A.S.A.やユクセク、メジャー・レイザーの作品に参加して話題を集める。このたびファースト・アルバム『I Love You』(Downtown/HOSTESS)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年08月26日 18:00

ソース: 『bounce』 313号(2009/8/25)

文/出嶌 孝次