ワッツーシゾンビ
20世紀末の結成以来、〈関西ゼロ世代〉と呼ばれたシーンでメキメキと頭角を現し、暴発的なテンションと怪物的な音圧、そして奇々怪々なメッセージをドバドバと吐き続けてきたベースレス・トリオ、ワッツーシゾンビ。彼らがレーベルを曽我部恵一主宰のROSEに移して初となる3枚目のフル・アルバム『WE ARE THE WORLD!!!』をリリースする。海外ツアーも経験し、自己拡張を繰り返して辿り着いたロックンロールには、〈孤高の爆音ロック〉と呼ぶに相応しい荒ぶるエネルギーが満ち溢れていた。
「いままでは3人であらゆるものをデストロイしまくったんです。その結果、何にもなくなってしもて(苦笑)。でも逆に、〈何にもなくなったら何でもできるぞ!〉という気持ちになりました。これは〈まさか!〉なことをたくさんやってやろうと思って作ったアルバムですね。このエネルギーは自分たちでも何なんだろう?って思うんですよ。初期衝動からずっとそのまんまできている感じはあるし、何かを突き動かしたいという気持ちもある。結局、まだまだ満足しきれてないんやと思います」(谷村じゅげむ:以下同)。
とはいえ『WE ARE THE WORLD!!!』というタイトルからは、作品に対する絶対的な自信が窺える。しかも、先日亡くなったばかりのマイケル・ジャクソンにちなんだかのようでもあるのだ。
「実は、もともと決めていたタイトルがあったんです。やけども録音を終えた夜、〈ちょっと違うな〉とみんなでいろいろ考えたんですよ。その時に僕が〈『WE ARE THE WORLD!!!』てどうやろか?〉って言うたら、みんなが〈それや!〉ってなって。それぞれ思いは違ったやろうけども、〈WE ARE THE WORLD〉いう言葉がアルバムを象徴していたし、僕ら的にも世界的にも、いまのタイミングでこんなタイトルのアルバムをリリースすることに物凄く意味があると思って。その後マスタリングも終了して、アルバムが完成した翌日にマイケル・ジャクソンがこの世を去ったんです。偶然なんかもしれへんけど、運命的なものを感じてしまうのも事実ですね」。
今回はプロデューサーとして、あらかじめ決められた恋人たちへの池永正二が参加。残響が渦巻くダブ・エフェクトを随所に施し、ワッツーシ・サウンドに重厚な奥行きを与えている。
「『ZOMBIE FROM EARTH』(5月発表のミニ・アルバム)の時に“最近思っていること。”という曲をあら恋といっしょにやってみたら、本当に最高で。曽我部さんも気に入ってくれて、〈次のアルバムも丸ごとやってもらったらおもしろいんじゃない?〉とアドヴァイスしてくれたんです。池永さんとは世代も同じで、聴いてきた音楽とか環境とか近い部分がたくさんあったんです。プリプロの段階から参加してもらったんですが、アイデアをキャッチボールしながらいっしょに作り上げていきました。めちゃくちゃおもしろがってやれましたね。同じ音でも見せ方で全然変わってくるもので、居場所は変わらないんやけども、扉がめちゃくちゃ増えた感じ。いろいろな人に来てもらえそうやし、どこへでも行けそうな気がします」。
その言葉通り、本作によって彼らに秘められていた可能性の扉は、さまざまな方向へ一気に開け放たれたと言えるだろう。
「いままで僕らの存在を知らなかった、より多くの人に響かせていきたいですね。それはもう、ゾンビも含めて。本当はマイケル・ジャクソンにも聴いてもらいたかったけど……。でもこのアルバムを作ったことで、まだ誰も行ったことのないところへ行ける確信が生まれました。早くそこへ行ってみたいですね」。
結成10周年にして、巨大な転機を呼び込みそうな快作を放つロックンロール・アンデッドたち。彼らはこれからも、爆音ロックの新たな地平を開拓し続ける。
PROFILE/ワッツーシゾンビ
谷村じゅげむ(ヴォーカル/ギター)、安里アンリ(ヴォーカル/ギター)、三宅メグル(ドラムス)から成る3人組。99年に谷村と安里の2人によって奈良で結成され、関西を中心にライヴ活動を開始。2001年に三宅が加入。2002年に自主制作盤をリリースし、活動の場を全国に広げる。2005年にファースト・アルバム『ブッダ マスク エクスペリエンス』を発表。その後〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO-GO〉に出演、2度のUSツアーも話題となる。2008年にセカンド・アルバム『ブッダ マスク レボリューション』をリリース。2009年にROSEへ移籍してミニ・アルバム『ZOMBIE FROM EARTH』発表。9月5日にニュー・アルバム『WE ARE THE WORLD!!!』(ROSE)がリリースされる。