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インタビュー

The Mirraz

  The Mirrazのニュー・アルバム『NECESSARY EVIL』がメチャクチャ格好良い。冒頭曲“check it out! check it out! check it out! check it out!”からして、〈最高!!〉と快哉を上げたくなるほどの突き抜けぶりだ。かねてよりアークティック・モンキーズからの影響を誇大標榜してきた彼らだが、ここではビースティ・ボーイズのアノ曲を大胆不敵にサンプリング。加えて〈こいつは引用です/ガタガタつまんないこと言うなよ?/なんなら作詞作曲はマイクD〉なんて放言する(良い意味での)タチの悪さと、そのタチの悪さすらエンターテイメントに還元するユーモアも満載なのである。

 「ヒップホップの影響を受けているリズムと、攻撃的だけど60年代とかの古臭さも感じさせるギターのリフがあって、70年代パンクの空気も感じられて……でもそれがミクスチャーっていう形じゃなくて、〈シンプルなロック〉として出来上がってるっていうのが、アークティックを最初に研究した時の印象。それを自分なりにやってみようかな、って思ったことがこのバンドの始まりです。〈check it out!〉はビースティを引き合いに出してますけど、自分のなかの〈ヒップホップらしさ〉を入れ込んだ曲で。このアルバムを作る時、ストリーツをずっと聴いていたんですけど、聴いた瞬間はジャンルがわからないほど自由な音楽で。でも、とにかく言いたいことを全部言っちゃうところにヒップホップらしさを感じる。音楽って常に心の解放みたいなものを求めてると思うんですけど、そこがいま、いちばん自由なのはヒップホップなんじゃないかと思うんです」(畠山承平:以下同)。

 そんな彼の言葉を体現するかの如く、善も悪も皮肉も本音も個人も社会も裏も表も○も×も理想も現実も……いま、目の前にある事象と対峙した末に溢れ出た大量のリリックが、堰を切ったように押し寄せる。そして、その奔放さはサウンドの広がりにも如実に表れており、目新しいところでは空間的なギターと浮遊感のあるコーラスが歌に滲ませた強いメッセージ性を引き立たせる“イフタム!ヤー!シムシム!”や、疾走〈泣き〉ソング“神になれたら”など従来の彼らからは想像不可能な切なさ全開の楽曲群だ。だが一方で、〈強靭なリフと表情豊かなリズム隊〉という元からの美点と先述のアークティック的な手法を踏襲し、かつ周到に逸脱させることにも成功している。

 「今回は、アークティックのやり方を参考にしながら、バンドのオリジナリティーをどう出すかってことをずっと考えてて……そんな時に、たまたま“Let's Go!”が出来たんです。その時、自分のなかで〈これはアークティックのパクリだけど、すごくオリジナリティーがあるな〉って感じて、〈それはいったい何だろう? もう1曲同じやり方で作ってみよう〉と思って作ったのが“なんだっていい//////”。で、その2曲が出来た時点で、もうこのままアルバムが作れるな、と。アークティックのようなダークさは若干薄れてるんだけど、ちょっと明るさがあって、ユーモアがより多くなってて、それがすごくThe Mirrazらしい攻撃性になってるっていう感覚があったんですよね」。

 開かれたサウンドによって聴き手とコミットする力もアップした新作だが、冠されたタイトルは〈必要悪〉。あらゆる解釈を丸ごと引き受ける潔さが、このバンドを支える強固な土台となっている。

 「〈The Mirrazって、アークティックのパクリだよね〉とか言われるのもひとつの話題だから、音楽シーンにいろんな人が集まって来られるんなら、それが例え悪口でも良いんです。そういう意味で自分たちは必要悪だなって思うし、音楽がまじめで正当性があるものだけになってしまうのはつまらない。音楽はもっとエンターテイメントであっていいと思うんだけど、今回のアルバムは〈何だかんだ言っても、すごく楽しいじゃん?〉って言える――純粋に楽しめる作品になったと思います」。

PROFILE/The Mirraz

畠山承平(ヴォーカル/ギター)、和田遼太郎(ベース)、関口塁(ドラムス)から成る3人組。2006年に畠山と和田を中心に結成。同年発表の自主制作盤『be buried alive』がラジオやTVなどで取り上げられて話題となる。2007年にVeni Vidi ViciousとのスプリットEP『NEW ROCK E.P』を限定リリース。2008年にはQUATTROらと全国ツアー、自主イヴェント〈Pyramid de 427〉の開催など精力的なライヴ活動を展開。また幾度かのメンバー・チェンジを経て関口が正式加入、サポート・ギタリストにKを迎えて現在の編成となる。同年ファースト・アルバム『OUI! OUI! OUI!』を発表して一気に知名度を上げ、このたびニュー・アルバム『NECESSARY EVIL』(mini muff)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年10月21日 18:00

ソース: 『bounce』 315号(2009/10/25)

文/土田 真弓