インタビュー

Rahze


   「〈大変でしょ?〉とよく言われますが、自分ではまだまだ出し足りないと思ってます(笑)」。

 そう語るのはDJ Deckstream。笑ってはいるものの、今年だけでもすでにオリジナル・アルバム『SOUNDTRACKS 2』とカヴァー企画盤『MUSIC CASTLE』を立て続けに発表し、以降も玉置成実や稲森寿世、ステフ・ポケッツらのリミックスをコンスタントに世に出しているわけで、周囲がそう声を掛けたくなるのもわかる。そして、またしてもニュー・アルバムが完成……と思えば、今度はRahze(ラーズ)なるハウス・プロジェクトでの新たなるデビューを飾ろうというのだから、その創作意欲とチャレンジ精神は尋常じゃない。

「Deckstreamとはアプローチが違うから、別名義のほうがリスナーの方々にわかりやすいかなと思いました。あと、新しいことに新しい気持ちでチャレンジするという気分的な意味合いです」。

 しかし、なぜハウスだったのか。これまでも親しんできたタイプの音楽なのかと思いきや、「正直なところ、好んで聴くジャンルではなかった」と素直に明かしたうえで、彼は率直に答えてくれた。

「今年の1月にリリースしたミックスCD『NAKED MIX』の依頼をいただいた際に、ネイキッド・ミュージックの曲を聴いたんです。スネアの鳴ってない曲が嫌いっていう点や、機械的な音だっていうイメージが勝手にあったんですが、ここの音はカッコイイと思いましたね。それで担当A&Rだった方のオススメ曲などを聴いていくうちにハマッてました(笑)。Rahzeの立ち上げも、彼の〈ハウスも作れそうじゃないですか?〉という一言がきっかけでしたね(笑)」。

 何から何までが新しいトライだったのは間違いないが、完成された『Rahze』は本人も「納得のいく出来になった」と語る通りの快作となった。全体のトーンは彼が惹かれたネイキッドやオムなどの西海岸ハウスに通じるもの。ラテン・マナーも含んだメロディックなビートと、ラトリスやリサ・ショウら日本でも人気の女性シンガー勢による華麗なパフォーマンスが融和した心地良い作風が貫かれていて、「NYハウスのパワフルなヴォーカルより、ライトな感じが自分の曲には合うんじゃないかと思いました」という狙いが奏功した格好となっている。一方で注目は、いずれも『SOUNDTRACKS 2』に続いての参加となるエンディア・ダヴェンポート(ブランニュー・ヘヴィーズ)とMilkaで、特に奥様でもあるMilkaがプロジェクトに果たした役割は大きかったようだ。

「Milkaが全曲のリリックを担当してまして、歌メロもラフな状態からいっしょに考えていったんです。デモから2人で作ったので、Milkaの声がしっくりきた曲では彼女を起用しました」。

 両者の持ち味が上手く溶け合った結果なのか、アルバム自体には流麗な統一感があるが、そこに往年のダンス・クラシックっぽいニュアンスがまぶされていたり、叙情的なダウンテンポが挿入されたりするクロスオーヴァーな側面にDJ Deckstreamの姿を垣間見る人もいるかもしれない。実際に出音こそいつものヒップホップ・ビートとは異なるとはいえ、作品に向かう意識はどの名義でも違いはないという。

「どの作品も〈最高の曲を〉と思って作りますし、そこは今回も変わりません。テーマもDeckstream作品同様に、毎回ポジティヴなメッセージ性のある作品にしようと決めてます。音に関しては、個人的にハウスは運転中に聴きたくなるので、車でチェックしながら作ったりしましたね。あと、やっぱりフロアで聴いて良いと思える曲になるよう心掛けました」。

 こうして、サイド・プロジェクトとは言い切れないほどの成果を生んだRahze。その活動は今後もパーマネントに続いていくというから、将来的にはDeckstreamのコラボもありえるのだろうか?

「ありえます! おもしろそうな企画があったらぜひ。近い野望はRahzeでのヨーロッパ・ツアーですね」。

 まだまだ尽きることのない創作意欲を携えて、彼のチャレンジは続いていく。

PROFILE/Rahze

DJ Deckstreamがハウスを中心としたダンス・ミュージックを制作する新プロジェクト。DJ Deckstream名義では、多様なプロデュース/リミックス・ワークで脚光を浴び、2007年に発表したファースト・アルバム『SOUNDTRACKS』のヒットで大きな注目を集める。今年に入って、1月にはネイキッド音源を用いた初のハウス・ミックスCD『NAKED MIX』を発表し、2月にはオリジナル作『SOUNDTRACKS 2』をリリース。その後Rahzeを始動させ、9月にラトリスをフィーチャーしたファースト・シングル“Gift of life”を配信限定で発表。並行してエンディア・ダヴェンポートやリサ・ショウらとのレコーディングを進め、10月28日にファースト・アルバム『Rahze』(KSR)をリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年10月28日 18:00

ソース: 『bounce』 315号(2009/10/25)

文/出嶌孝次