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インタビュー

LOVE PSYCHEDELICO

マイペースに良作を作り続けて早10年。じっくり音楽と向き合って生み出された、どこでもない〈彼らだけの場所〉へお連れします……

  「アルバムを作るごとに、自分たちの音楽哲学みたいなのを確認することが多いんです。だから10年という数字より、毎回毎回アルバムを作るのがひとつの節目。しかも、(その哲学の)答えを探す旅というよりも答えを持って作品作りに挑む感じですね」(NAOKI、ギター/ベース)。

 2000年4月にデビュー。風格と貫禄もたっぷりに、気付けばキャリアも10年を数えている。現在では自分たちのスタジオを持つに至り、NAOKIはTHE BAWDIESなどのプロデュースを務める機会が、KUMIも他アーティストの作品やステージで歌声を披露する場が増えてきた。けれど2人は決してその人気に慢心することなく、いまもひとつひとつ自分たちの音作りに対する美学を噛み締めながら、丹念にアルバムを生み出している。無闇に新しいことを採り入れるというアングルではなく、自分たちのスタイルに集中するというアングル。それこそLOVE PSYCHEDELICOが作品ごとに試みる〈挑戦〉なのだ。

 「結局どういう音でどういうアレンジでっていうのが最初から2人の頭にはあるわけで、それを理解できるのはやっぱり2人なんですよ。今回のアルバムでいちばん見えてきたことはそれですね」(KUMI、ヴォーカル/ギター)。

 「現場では僕ら2人のどちらかがブースで音を出していて、どちらかがプロトゥールスの前にいる。それを繰り返しているから当然時間がかかるんです。でも自分たちでやるという方法を変えないほうがいいってことに改めて気がついた。例えばバンジョーの音が欲しかったとしても、巧い人にやってもらうよりは半年とか1年練習して自分で弾いたほうがいい。それが自分たちにとっては自然なんです」(NAOKI)。

 彼らがそう思うに至った背景には全米でアルバム・デビューを果たした2008年、LAに長期滞在した時の経験があるという。今回の約2年ぶりとなるニュー・アルバム『ABBOT KINNEY』を制作する前、2人はサンタモニカで3か月ほど生活。そこで現地のミュージシャンと仲良くなったり、自然な流れでライヴも実現した。

 「本当は向こうで曲を書いてきます、と言って旅立ったんだけど結局全然書かなかった(笑)。でも間違いなく得たものはあった。例えば“Abbot Kinney”とか“Beautiful days”はただ〈楽しい〉ってことを伝えたかっただけかもしれない。そういう気持ちで素直に曲が書けるようになれたのが収穫ですね」(NAOKI)。

 「もともとエゴみたいなのはなくて、歌を歌うことも裏でエンジニアリングする作業も同じフラットな感覚。作品が良くなることが第一だっていう気持ちはデビューからずっと変わっていないところなんですけど、いまは特に強く感じますね」(KUMI)。

 60~70年代風味と例えられることも少なくない彼らの曲調は、今回のアルバムでも劇的に変化しているわけではない。だが、とりわけ本作には〈いまの目線〉が強く落とされている。それはラフな雰囲気をそのまま封じ込めた演奏や、多少のルーズさを残した包容力のあるKUMIのヴォーカルなどから感じ取ることもできるが、何よりいまここで、この時代を謳歌して音を鳴らしているんだという2人の充実感が作品に込められているのが大きい。また、タイトルの『ABBOT KINNEY』はサンタモニカのストリートの名前で、ジャケットのアートワークにも現地の写真があしらわれているし、CCRの〈雨を見たかい?〉のカヴァーも収録されているが、不思議なことにアメリカの空気には支配されていない。ではいま、彼らは自分たちのホームグラウンドはどこにあると考えているのだろうか?

 「言われてみればどこでもないんですよね。東京にいるけど、東京っぽさみたいなのは意識していないし、アメリカの風景を追いかけているわけでもない。たぶん、たくさんの音楽を聴いてきたことがそのままイマジネーションになってるんだと思います。あと楽器に対するスキルとか音へのこだわり。それが自分たちだけの場所を作っているんじゃないかな」(NAOKI)。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年01月13日 18:00

ソース: 『bounce』 317号(2009/12/25)

文/岡村 詩野

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