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インタビュー

映画『イエローキッド』 真利子哲也監督インタヴュー

自主映画界から全国公開映画でデビュー。黒沢清も認めた新たな才能

独立系映画館のネットワーク「シネマ・シンジケート」が今後期待される新人を選び、全国主要都市の映画館で公開する画期的な試み「New Director/New Cinema 2010」。栄えある第一回作品として選ばれたのが、真利子哲也監督の初長編作『イエローキッド』だ。わずか200万円の制作費と10日間の撮影期間で作られた本作は、大学院の修了制作作品として作られたもの。ボクサー志願の青年・田村と漫画家・服部、二人のそれぞれのエピソードが現実と虚構の境界で交差していく。そんな物語の鍵となるのが『イエローキッド』というコミックで、実在したアメコミをヒントにしたらしい。

「1896年だったと思うんですけど、まず『Hogan's Alley』というコミック・ストリップが新聞に載ったんです。その後、そこに登場したキャラクターのイエローキッドが人気が出たというんで、同時に新聞社2社が『イエローキッド』というマンガをオリジナルとして掲載し始めて、〈どっちがオリジナルだ?〉という論議が巻き起こったらしいんですよ。そういった、どっちが本当かわからないようなところが、映画のなかで田村が二面性を持っていくところと重なる気がしたんです」

痴呆の祖母と暮らし、逃げ場のない日々を送る田村は、次第に服部が描くコミック『イエローキッド』のキャラクターに自分を投影するようになる。そんななかで、商店街を歩く田村の表情に次第に影が差し、初めて犯罪を犯すまでをワンショットで捉えたシーンは、田村を演じた遠藤要(『クローズZERO』『カイジ』など)の熱演もあってひときわ印象的だ。

「このシーンは小人数のスタッフでゲリラ撮影だったので一回勝負しかできない。そういった切迫した状況のなかで、遠藤さんの演技にも気持ちが入っていったんだと思います。今回は予算の都合もあって、役者さん達に高額なギャラは渡せないぶん、どれだけこの作品を作りたいか、どれだけこの作品が面白いかを僕が直接会って詳しく説明したんです。いちばん大切なのは、そういった熱だと思ったので。そうすることで、出演者には現場ではいつも張り詰めた気持ちで映画に挑んでもらおうと。それが演出に繋がっていったんだと思います」

真利子の大学院の恩師、黒沢清は、本作の持つ〈生々しさ〉と〈ドラマティックな力強さ〉を絶賛したが、そこには真利子の映画に対する真摯な情熱が秘められていた。今後の監督としての抱負を訊ねると、「幅広く、多くの人に向けた力のある作品を撮れるようになりたいです」と語ってくれた真利子監督。日本の映画界を相手に、1ラウンド目のゴングは今鳴ったばかりだ。

映画『イエローキッド』 
監督:真利子哲也 音楽:鈴木広志/大口俊輔 出演:遠藤要/岩瀬亮/町田マリー/波岡一喜/玉井英棋/でんでん 他 配給:ユーロスペース(2009年 日本)
◎2010年1/30(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー!

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年01月31日 15:12

更新: 2010年02月07日 20:07

ソース: intoxicate vol.83 (2009年12月20日発行)

interview&text:村尾泰郎