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インタビュー

清浦夏実

オムニバス映画『TOKYO!』にてレオス・カラックスが監督した作品『メルド』。完璧主義者で知られる監督が銀座でのゲリラ撮影前に、お台場などで何日も入念なリハーサルを行ったそうだ。その時のエピソードを楽しそうに話す。

「一緒に出演した女の子と主役のドニ・ラヴァンさんと3人で、ずっとお昼ご飯食べたりしてて。片言の日本語とフランス語でお喋りしながら。ええ、通じるもんなんですよ(笑)」

清浦夏実。十九歳。女優として、また近年は歌手としても活躍をしている。そんな彼女の音楽活動が結実したファーストアルバム『十九色-じゅうくいろ-』がリリースされる。
菅野よう子、窪田ミナ、ザバダックの吉良知彦、元ポータブル・ロックの鈴木智文、カヒミ・カリィ作品でもおなじみの神田朋樹、ボーイミーツガールの詩人、尾上文、つじあやのらが参加。また本人も作詞/作曲、フルートやピアノ演奏とマルチな才能を披露している。

「時間をじっくりかけて制作したこのアルバムが完成したことで、一歩先に進めた気がしました。いろいろと悩んでいた中、足りなかったもの──割り切れない数、19を20にするためにあとひとつ欲しくて、アルバムが完成することによってやっと大人になれた、そんな感じがしました」

アルバムの始まりを告げるナンバーは《十九色》。窪田ミナのピアノと清浦のフルートは、一発録りの所為もあり、演奏に一体感が漂う。──夢うつろな世界を何色に染めようか──声は宙に放つ。「大人ぶっても大人と認められず、かと言って子供にも戻れない」十代最後の年、「中途半端な数だけど一番可能性がある数字」──19。足りなかったひとかけらは、限りのない色に染まる。

菅野よう子がアルバムのために書き下ろした新曲《アノネデモネ》は坂本真綾が好きな人にもオススメなキュートでチャーミングなポップ・チューン。菅野もツボにはまったという「右側がくすぐったい」などの名フレーズが飛び出す、ユニークな言語センスを持つ清浦の才気がみなぎる快作だ。できあがった曲を聴いて、清浦が歌詞をつけたのかと思いきや、曲を初めて聴いたのは1番の歌詞が完成してからだそうだ。

「菅野さんから『何でも良いから歌詞書いて送ってこい!』って言われて、毎日、日記のように書いてはメール送って、その日のうちに返事もらって、また書いては送ってを1ヶ月半くらい(笑)。『これでも早い方なんだよって』言われました。でも最初は凄いプレッシャーでした」

菅野の作詞通信講座。そして人物観察や日常生活のエピソードを詩(うた)の言葉へと転化させる力の磨き方などなど。詩に関しては「もう何が来てもへっちゃら(笑)」。一連の過程は彼女を次のステップへと誘ったようだ。

「自分の奥のさらに奥のものを引っ張りだしてくれた菅野さんとの作業は、新しい自分を発見できて、非常に刺激的でした。だからレコーディングもすっごく楽しくて! スタジオで菅野さんと一緒にアイス食べながら(笑)『美味しー!』って。菅野さんの生態系がよくわかりました(笑)」

アルバムにも新ヴァージョンにて収録されている4thシングル《悲しいほど青く》は窪田ミナによるピアノとストリングスの繊細なタッチが美しく冴える名曲。また清浦の詩も言葉にできぬ切ない想いを静かに綴る、心に深く響く内容だ。
抑えたニュアンスの表現や声の存在感。以前から歌唱力には定評があったが、その成長が特に感じられる。それはアルバムの為に録音した新曲にもさらに顕著だ。

「1、2枚目のシングルの時にはとにかく歌うことに必死でした。その後、大学受験で歌から離れて、1年ぐらいブランクが空いてしまって。その時思っていたのは、もっと歌いたいけれど、ただただ歌うだけじゃ良くないなって。4枚目のシングルの際にセルフ・プロデュースじゃないけど、自分に、音楽に向かい合って、作品制作に深く参加することができました。そこで得た自信をアルバム制作の流れにも持って行けたので、歌にも表れているのだと思います」

大学では映画の勉強をしている彼女。最近見た映画でお気に入りなのは『落語娘』の中原俊監督の名作『櫻の園』(1990年)だそうだ。

「歌手と女優では表現方法が異なるけれど、私の中では分け隔てなく同じ気持ちです。作詞で得た感覚やコツを演技に応用することもあるし、恋人役との演技を作詞に生かしたりとお互い刺激し合っている。ひとりの表現者として活動しているのかなって」

アルバムのラストを飾るナンバーは石川セリの1977年の名曲《Midnight Love Call》。ショーロクラブの笹子重治による編曲/演奏でしっとりと締めくくる。

「十代の今でしか歌えない曲、そして最後にこれから大人になる自分。そんな流れを考えてアルバムを作りました。やはり18歳の時には歌えなかっただろうし、20歳だったらまた違うものになっていただろうし。今、このアルバムを出せて本当に良かったです」

このアルバムは若手女優が企画で歌ってみた、ものではない。絶妙なタイミング。少女の自身への純粋で密やかな挑戦。ひとりの表現者として、その始まりを刻み始め、その先へと向かう、通過点。
充実した内容のデビュー作に大きな満足感を。そして欲張りにもさらなる期待の高まりを。きっと彼女は応えてくれるはずだから。

「清浦夏実 DEBUT LIVE〜十九色〜」
4/4(日)下北沢ガーデン
17:30開場/18:00開演 
http://www.jvcmusic.co.jp/kiyoura723/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年02月17日 19:45

更新: 2010年02月17日 20:06

ソース: Web Exclusive

interview & text : 水上渉(渋谷店)