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インタビュー

スチャダラパー × TOKYO No.1 SOUL SET

 

スチャダラパー×TOKYO No.1 SOUL SET_特集カバー

 

@bounce デビュー以来、ギラギラとは無縁にブレない活動を続け、今年で20年となるスチャダラパーとTOKYO No.1 SOUL SET。石川遼くんや菊池雄星くんの人生よりも長い、その20年間を振り返ってのよもやま話なう。

 

――両者の交流のきっかけからお話してもらえますか。

BOSE 「僕らがコンテストに出た時に、ヒロシくんが僕の同級生に誘われて観に来てくれて」

川辺ヒロシ 「そうそう。そこで〈僕、ZOO(注1)でDJやってて〉って挨拶したのが最初。ZOOでは、BIKKEとDRAGON(注2)がたまにマイク握って僕の時間帯にやってた」
(注1)ZOO……かつて下北沢にあったクラブ、のちに〈SLITS〉と改名。スチャ、ソウルセットのほかにも、90年代のクラブ/ポップ・カルチャーを飾ったアーティストたちを輩出、交流の場にもなっていた重要スポット。95年閉店。
(注2)DRAGON……DJ DRAGON。ソウルセットの初期メンバー。92年脱退。現在も音楽プロデューサーとして活動中。

――20年前、ソウルセット以前のBIKKEといえば、「宝島」や「CUTiE」(注3)といった雑誌によく出てるオシャレな人ってイメージでした。
(注3)「宝島」や「CUTiE」……現在でこそビジネス誌とハイティーン向けのファッション誌というまったく趣向の異なる雑誌だが、80年代半ば~90年代初頭の「宝島」はストリート・カルチャー誌として絶大な人気を誇り、「CUTiE」はその女の子版として89年に創刊された。

BIKKE 「〈宝島〉とかに出てたまでは合ってるけど、〈オシャレな人〉はどうかな(苦笑)」

川辺 「〈CUTiE〉の編集部に友達がいたから、ファッションスナップの人集めをしてくれってよく頼まれてたの。スカっぽい子集めてくれ、とか」

BIKKE 「友達レヴェルだもんね、あそこに出てたの」

――当初、みなさんはクラブの延長で飄々とやってるように見えてたんですけど、上昇志向はありました?

BIKKE 「僕はなかった」

BOSE 「ないよね。ない人多かったもん。そういうのがいちばんカッコ悪いっていうか、なんか苦手だった」

――かたや空前のバンド・ブーム(注4)で、ギラギラしたバンドメンとの対比がおもしろかった記憶があります。
(注4)空前のバンド・ブーム……表参道〈ホコ天〉で発生したストリート・バンド群に端を発し、89年放送開始のTBS「三宅裕司のいかすバンド天国」で一気に火が付いた。同番組が終了した90年末ごろには沈静化。

BOSE 「そういう人たちに上昇志向があったのかはわからないけど、騙されてたとも言えるよね、大人に。僕らの場合、疑い深かったというか」

――いままで音楽的な衝突はありました? とくにANIさん、SHINCOさん兄弟は血縁ゆえに許せないことも……。

BOSE 「そのラップは違う!とか……ないよね?(笑)」

SHINCO 「もっとくだらないことで喧嘩してる」

ANI 「〈蒼井優と沢尻エリカどっちがいい?〉みたいな(笑)」

SHINCO 「〈蒼井優ないわー〉〈沢尻のほうがないわー〉って言い合って。そのあと曲作りしてたら、ANIが急に〈おまえ結局ぜんぜん選択してねーじゃねえか!〉って言ってきて(笑)」

――しょうもないですねえ(笑)。さきほど上昇志向とは無縁とおっしゃってましたが、周りの状況の変化はどう見ていましたか?

BOSE 「ZOOで客が来すぎてたいへん、みたいなことあったもんね。出演するのに名前も出せない、とかね。でも、名前を隠してでもやったほうがおもしろいから、出てたけど。月に1回友達と遊ぶ、みたいな」

BIKKE 「そういう苦労がスチャにはあったろうねえ。俺らはなかったけど」

川辺 「それほど売れてないし(苦笑)」

――当時、ソウルセットがハードコア・パンク系のイヴェントに出演しているのを見て、そのフットワークとプロ意識はすごいなと思ってました。

BIKKE 「ソウルセットの強みは、酒が飲めたことだからね。そういう人たちとも飲めてたから」

ANI 「飲ミニケーション?(笑)」

渡辺俊美 「DRAGONが抜けたあとの最初のライヴって、僕は客として観てて。ヒロシくんはDJしてて、BIKKEがマイク持ったままずっと酒飲んで30分間ステージうろうろしてるだけのライヴだったんですよ」

一同 「(笑)」

俊美 「すっげーなあ、こんなのいないなあって思った」

BIKKE 「なにやってんだ俺(笑)」

川辺 「その次のライヴも同じような感じなんだ。フェラ・クティに合わせてずっとギター弾いてるだけで、客全員ぽかーん(笑)」

BIKKE 「当時はノリがまだレゲエっぽかったのかな。〈セット〉としてやってたから」

川辺 「そう、俺のDJの時間もライヴの中には組み込まれてた」

BIKKE 「だから、たまに煽りでしゃべるくらいはやってたかもしれないけど……今はそんな度胸、逆にないよ(笑)」

スチャダラパー×TOKYO No.1 SOUL SET_A2

――クラブって自由な反面、水商売的な上下関係の厳しさがありますが、みなさんには舎弟を鉄拳制裁!……的なイメージは皆無です。

ANI 「それが伸びない原因だって話したんだよね、こないだ」

SHINCO 「下が育たない」

ANI 「体系がしっかりしてないから、ズルズルのことやってるうちにどこか行っちゃうしね」

BOSE 「ナゴム(注5)がそうだからね(笑)」
(注5)ナゴム……ナゴムレコード。83年に始まったインディー・レーベルで現在もその名は存在するものの、基本的には休止状態。代表的なアーティストは、有頂天、筋肉少女帯、たま、ばちかぶり、人生(電気グルーヴの前身)など。

ANI 「かたやExtasy(注6)はビシッとブレずに縦軸があって(笑)」
(注6)Extasy……Extasy Records。X(現・X JAPAN)のYOSHIKIが86年に立ち上げたインディー・レーベル。ヴィジュアル系ロックの先駆的レーベルで、LUNA SEAやGLAYなどもここからリリース。本文中で語られているのは、勝手なイメージ半分。

BIKKE 「やっぱりそういうの好きじゃなかったんじゃない? あと、先輩もそうだったから。たとえば悟さん(注7)とか、荏開津さん(注8)とか」
(注7)悟さん……藤井悟。80年代半ばからDJとして活躍。レゲエをはじめカリブ海近郊の音楽を独自の解釈でプレイするレベル・ミュージック・スペシャリスト。
(注8)荏開津さん……荏開津広。80年代半ば以降の東京クラブ・シーンにおけるキーマン。現在はDJ、音楽ライターとして活動するほか、アート関連のプロジェクトも手掛ける。


SHINCO 「完ちゃん(注9)だよね、やっぱり」
(注9)完ちゃん……高木完。70年代後半から音楽活動を開始。80年代半ばには藤原ヒロシとともにTINNIE PUNXを結成し、日本のヒップホップの先駆的存在となる。88年に藤原らとともに日本初のヒップホップをメインとしたレーベル、MAJOR FORCEを設立。スチャダラパーのファースト・アルバム『スチャダラ大作戦』もこのレーベルから。デ・ラ・ソウルの93年作『Buhloone Mindstate』にはスチャとともに客演参加している。

BOSE 「最初に〈(呼び名は)完ちゃんでいいよ~〉って言われたもん。いまだに変わらないもんね、完ちゃん」

BIKKE 「でも確実に先輩だし、思えばいろいろお世話にもなった。本当に」

BOSE 「そこが、Extasyだったら〈ははぁっ!〉(とひれ伏す)みたいになる感じ」

ANI 「グラスが空いてたらすかさず〈なに飲まれますか?〉みたいなね」

BOSE 「そういうのないねえ。やってもらったことないしね」

BIKKE 「俺らより先にカウンターの下の方で寝てたりするしね」

川辺 「下の人間の喧嘩をフォローすることはよくあったけどね(苦笑)」

BOSE 「逆だよ!っていう」

BIKKE 「まあ、そういうふうにしてくれってお願いもしてないですけど」

――そういうクルー的な若い子たちはどうやって入ってくるんですか? たけし軍団方式とか?

川辺 「いや、懐いてきて。負けずに懐いてくるっていうかね」

ANI 「常連からはじまって……」

川辺 「10回くらいはシカトされるから、それでもメゲずに来れるヤツじゃないかな。それでようやく顔を覚える。それか、強烈な印象一発なヤツとか(笑)」

――なるほど。聞けば聞くほど、女っ気がないですねえ。

BIKKE 「それどういうことですか? 失礼なこと言ってません?」

――いやいや(焦)。例えるなら〈男子校のクラスの結束感〉というか。

BIKKE 「ああ、そういう感じね」

ANI 「女の子を可愛がる感じはないね」

BIKKE 「ようやく最近になって、HALCALI(注10)とかがちょっと。これはもう、〈娘〉的な感じだけど」
(注10)HALCALI……TOKYO No.1 SOUL SET+HALCALI名義のシングル“今夜はブギー・バック”、BOSEをフィーチャーした彼女たちの最新シングル“ENDLESS NIGHT”――ここ最近、スチャ&ソウルセットとの親交が深い〈貴重な〉女子。

ANI 「それ以外は、ないね」

――えーと、それはなんででしょうかね?

BOSE 「(ボソっと)つまんないから」

BIKKE 「出ました、ボーちゃん(笑)」

BOSE 「正直に言うと……あいつらつまんない!」

一同 「名言出ました(笑)」

BOSE 「おもしろい女の子いないもん」

ANI 「そうだよね、〈センスいい〉みたいなね」

BOSE 「友近くらいでしょ?」

一同 「(笑)」

ANI 「ズバ抜けてね。友近か、馬場園(梓:アジアン)くらいだね(笑)」

SHINCO 「大久保(佳代子:オアシス)さんとかね」

BOSE 「そうなるともう、プロになっちゃうからね(笑)。ああいう人たちだったらたぶん、連めるよね」

俊美 「でも俺ら、チエコ・ビューティー(注11)とかと一緒にやってたよね。でもまあ、チエコも男子校っぽいけど」
(注11)チエコ・ビューティー……90年代初頭の黎明期ジャパニーズ・レゲエ・シーンからメジャー・フィールドに躍り出たプリティ・シンガー。現在は活動休止中。ソウルセットのファースト・アルバム『young guys, gifted and slack!』は、彼女がメジャー・デビュー前に在籍していたレーベル、ナツメグからのリリース。

BOSE 「ああいうヤツじゃないと連めないよね」

 

スチャダラパー×TOKYO No.1 SOUL SET_A1

 

――みなさん、自分を芸能人だと思ったことあります?

一同 「(口々に)あるわけないでしょ!」

俊美 「そういえばボーちゃん、この前言ってたじゃん。化粧してるほうが普通じゃない?って」

BOSE 「ああね。昔のロックの人は、化粧して自分を盛り上げて、変身してジャーン!ってやるのが普通で、俺らは素で出てるからやっぱり狂ってるって」

一同 「(笑)」

SHINCO 「来たそのまんまでやってるぞ、あいつら!って」

BIKKE 「着替えないんですか?みたいなこと言われたことあったなあ」

川辺 「デ・ラ・ソウルのビデオでQ・ティップがリュック背負ったままライヴやってんの観たとき、うわー!と思って(笑)。そのへんに置いといたらパクられるから(笑)、リュックすら降ろさねえんだ!って」

BOSE 「やっぱ狂ってる(笑)」

BIKKE 「その感じって、クラブから始まったからじゃないかな」

一同 「そうだよねえ」

――クラブにおいては客と出演者ってほとんど境界はないですもんね。

川辺 「出番です!って言ってもそのままだからね」

BIKKE 「はい着替えましょう、とかない」

SHINCO 「外タレとかもそのまんまだもんね」

俊美 「昔のジャズメンとかもそうだったんじゃないかな」

川辺 「ああ。チャーリー・パーカーが朝まで飲んでて出番が来たら演奏する、みたいな」

俊美 「ビル・エヴァンスって写真見るとかっこいいけど、すっごいボロボロだったらしいよ。服の毛玉とかタバコの焦げ跡がすごかったって」

BOSE 「SHINCOみたいだ(笑)」

ANI 「酒こぼし跡とかね(笑)」

――さて、そんなこんなで20年。ここで意外にも初となるコラボ曲がそれぞれのベスト盤に収められているわけですが、強い動機があったんでしょうか?

BOSE 「単純に、ベストだから」

川辺 「事務所も一緒だし」

俊美 「なんの違和感もなく」

SHINCO 「なんのストレスもなく」

BOSE 「もう、甘噛みしてるうちにできちゃった感じ」

俊美 「アルバムまで作ってたら、もっとしゃべることあったと思うけど……」

一同 「そうだよねえ」

川辺 「トラック作ってる間、ずっとSHINCOがウーロンハイ臭くてね(笑)」

SHINCO 「〈あっ、そうだ! 川辺くんって機材いじんないんだ!〉って思い出したり(笑)」

BOSE 「そういや、最初の頃は2人でそんなことやってたねえ」

――じゃあ20年前と、やりかたも関係性も変わらず、みたいな?

川辺 「やってる場所が昔は実家、みたいな感じだけで。でも詞は違うでしょ。こっちの3人(BOSE、ANI、BIKKE)は〉」

BOSE 「BIKKEがいるから早かったなあ。BIKKEがパパッとアイディア出したらあっという間で」

BIKKE 「だってもう時間がなかったからさあ、先に提案だけでもしとこうかと思って。なんかあれば始まるじゃん」

BOSE 「俊美くんのメロディー入っちゃったらもう抗えないもんね」

BIKKE 「引っ張られるしかない(笑)」

――じゃあ、とくにドラマチックな感慨もなく?

BOSE 「しいて言えば、ここまでやらなかったってことがひとつのドラマとも言えるわけで。意識はしてたんですよ、お互い。向こうがこういうのをやってたら、僕らは意識してることを気づかれないようにかっこいいものを作りたい、みたいな。そうやってライバル的にやってたから、向こうがレコーディング入ってたらこっそり見てやったり〉」

ANI 「さりげなく遊びに行ったフリしてね(笑)」

BOSE 「お互い、そういうのがあったから、一緒にやるんならもっとオモロいもん作ってやる!っていう感じでしょう」

 

▼関連盤を紹介。

左から、スチャダラパーのベスト・アルバム『THE BEST OF スチャダラパー 1990~2010』、TOKYO No.1 SOUL SETのベスト・アルバム『BEST SET』(共にtearbrideg)、渡辺俊美のソロ・ユニット=THE ZOOT16のニュー・アルバム『ヒズミカル』(スピードスター)、TOKYO No.1 SOUL SET+HALCALI名義のシングル“今夜はブギー・バック”(tearbridge)、BOSEをフィーチャーしたHALCALIの最新シングル“ENDLESS NIGHT”(エピック)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年02月24日 18:40

更新: 2010年03月03日 18:10

ソース: bounce 318号 (2010年2月25日発行)

インタヴュー・文/フミヤマウチ