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インタビュー

Sonho

音楽と会話すること・・・参加して育つ音楽

時々、音楽の聴き方について普段より真剣に考えることがある。それぞれの楽器がどう関係しあっているのか、歌があるなら、そこに楽器はどう絡んでいくのか。さらに詞とメロディ関係はどうか…等々。いままで聞き流していた音楽でも、そうした意識のもとで聴くとイメージが変わることも多いが、そこまで意識して聴くに値しない音楽もある。傲慢かもしれないが、それだけ音楽は饒舌で正直で残酷なのだと思う。

シンガー・ソング・ライターの高尾典江とピアニストの中島徹によるユニット、Sonhoのアルバムを聴いている時、あまり意識もしていないのに、歌とピアノがお互いに会話をしているような……抽象的な表現で申し訳ないが、そんな風景が脳裏に浮かぶ。もちろんピアノの音に言葉はないが、それでも中島のピアノが高尾の言葉に応えている気がした。

「常に歌に対してどんな音がいいかを考えて弾いている」と中島は言う。さらに「あんまり同じ事ばかりやっていると飽きてしまうし」とも。すると高尾も「中島さんは壊すのが好きだから」とちょっと茶化すようにいう。脳裏に浮かんだ会話の風景は、まさに中島のそうしたアプローチが見せてくれた幻覚のようなものだろう。

ピアニストとしてだけでなく、トロンボーン奏者としても活躍する中島は、サルサやラテンジャズのグループやセッションで活躍するピアニスト。基本的なアレンジは決まっていても、グルーヴ次第でどんどん変化することは珍しくない。その点はジャズでも同じだが、ラテン音楽の場合は、逸脱と予定との紙一重を進んでいくスリリングな魅力がある。さらに中島が持つ沢山の引き出しが、そのピアノをもっと面白くしているのだろう。

歌詞を追いかけてみよう。喪失を感じさせる歌が少し多い気がする。高尾はこう明かす「彼女に早く届けてあげたくて」。彼女、とは二人の大切な音楽仲間。もうお察しだろうが、この別れが本作をリリースするきっかけになったのだとも言う。「作り手が気持ちを入れた曲には 〈旬〉があって、それを逃すと演奏の内容や気持ちも変わってくると思う」。中島の説明を聞いて、もう一度アルバムを聴き直してみると、なんだか想いがもう一歩、心に近づいてきた気がする。間違いなく悲しい曲だが、その後ろ側に、彼女ができなかった分も引き受けて、音楽を作っていく、という決意のようなものが見えてきた。

関西を拠点に活躍する高尾は、当初ボサノヴァのカヴァーを歌っていたが、徐々に日本語の詞をのせたオリジナルを作るようになる。「言葉の違いで表現の自由度が違う」と高尾はいう。それだけじゃない。ポルトガル語を充分に解さない身にとっては理解の自由度も違う。そう、聴き手自身も高尾の言葉と…会話しているのだ。

Sonhoの音楽はただ聴いて楽しむだけではない。その会話に参加し、さらに自分を投影して、創り上げる。そんな音楽だと思うのだが、どうだろう。

 

『CD『memoria』発売記念ライヴ』
3月8日(月) モーションブルーヨコハマ
3月10日(水)ビストロダルブル恵比寿店
http://sonho2.seesaa.net

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年03月01日 14:25

更新: 2010年03月01日 16:24

ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)

interview & text : 渡部晋也