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インタビュー

踊ってばかりの国 『グッバイ、ガールフレンド』

 

 

ユルい。いや、演奏はかなりホネがある。相当濃いグルーヴを出している。けど、姿勢がユルい、へラヘラしている。一生懸命やってる感を表に出さないユルさがある。その照れ隠しさながらの飄々とした姿勢が良い。踊ってばかりの国という、ハバナ・エキゾチカのアルバム・タイトルと同じ名を持つこの神戸の5人組(ベーシストが加入して5人編成になったばかり)は、平均年齢20歳そこそこながらそんな現代的で人を喰ったような感覚を持つバンドだ。

「あの~資料にはあれこれ書いてあるんですけど、これ、ハッキリ書いておいてくれます? 僕らボ・ガンボスとかRCサクセションとかロクに知らないし、好きじゃないですし、ハバナ・エキゾチカもちゃんと聴いたことないですから(笑)。前にいたメンバーが勝手にバンド名を付けただけで、影響は受けてないんですよね。影響を受けたのは、神戸のインディー・バンドのvalvaと髭(HiGE)とデヴェンドラ・バンハートくらいです」(下津光史)。

受け答え、痛快である。何も恐れていない、何にも媚びていない。好きなものは好き、キライなものはキライとハッキリ言う。でも、実力で勝負です、みたいな肩肘張ったところはからきしなく、下津はケロリと一言「僕ら、ヘタですから」(決してそんなことはないが)。結成は2008年4月のこと。後から加入したヴォーカルの下津がそのままバンドを乗っ取る形で現在の編成に落ち着いた。

「最初は〈誰が聴くねん、こんなん!〉って感じの胡散臭いアングラやったんです。僕らはもっとポップなものをしたかった。でもって、がんばってる感じのヤツらを鼻で笑うような感じにもしたかった。ただ実際は何も考えてないんですよね(笑)」(下津)。

「もっとオリジナリティーを出していきたいって気持ちはあって。だから、今回のアルバムではメンバーそれぞれがもっと考えて、個性を出していこうって意識はありました」(滝口敦士)。

昨年7月に発表されたファースト・アルバム『おやすみなさい。歌唄い』はリハーサル・スタジオで簡単に録音したものだったが、ニュー・アルバム『グッバイ、ガールフレンド』は音響処理にもかなり気を配った仕上がりとなっている。また一見自嘲的だが、ニヤニヤと聴き手を挑発してくるようなブラック・ユーモアは前作以上。音のねじれをラフに捉えたガレージな演奏と、フリー・フォークさながらのうわずった歌い方、サイケ感丸出しのファジーな音の質感――デヴェンドラ・バンハートがそうであるように、このバンドも新手のアシッド・ミュージックのひとつと言って良いほどの充実した仕上がりだ。

「最近のバンドって体育会系のものが多いでしょ? 〈俺らカッコエエやろ~?〉みたいな感じのが多い。そういうのがホンマにイヤで。オシリペンペンズとかZUINOSINとかはいいんですよ。僕らはもうこれしかできひんって感じで。僕らも他に潰しが利かないんです。そういうギリギリのところでおもしろいことをやってるバンドでいたいんですよ。それは歌詞にも音にも出てると思います」(下津)。

確かに、歌詞にはここで解明できないような隠語がチラホラ。だが、そういう確信犯的な側面も含めて、いまもっともおもしろい日本の若手バンドは間違いなく彼らであると断言してもいい。ぜひ多くの人に彼らの音楽で脳内トリップ体験をしてほしい。そして最後にチラリと漏らした本音には、リーダー・下津の冷静な本気がある。

「ロックの成長が遅いってことは言えますよね。例えば〈YouTube〉で村八分とかを観たりするとカッコイイですけど、ゆらゆら帝国がいまやってることと同じやなあって思う。ま、使ってる楽器が変わってないですし、昔からの手法でいまもロックって成り立ってる。で、僕らもその上にいたりするわけですけどね」(下津)。

 

PROFILE/踊ってばかりの国

下津光史(ヴォーカル/ギター)、滝口敦士(ギター)、林宏敏(ギター)、佐藤謙介(ドラムス)、柴田めぐみ(ベース)から成るロック・バンド。2008年4月にオリジナル・メンバーによって神戸で結成。その後下津が加入し地元を中心にライヴ活動を展開。2009年に入って下津を除くメンバーが脱退し、入れ替わりに加入した面々でほぼ現在の編成が固まる。同年3月に自主制作盤となるファースト・アルバム『おやすみなさい。歌唄い』を発表。同作の全国流通開始に伴って初の東名阪ツアーを行う。以降も各地でライヴ/イヴェントへ精力的に出演し、認知を広める。今年に入って、1月にベースの柴田が加入し、3月にニュー・アルバム『グッバイ、ガールフレンド』(mini muff)をリリース。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年03月05日 21:20

更新: 2010年03月05日 21:26

ソース: bounce 318号 (2010年2月25日発行)

インタヴュー・文/岡村詩野