インタビュー

宮川彬良

大人をも夢中にさせる、Eテレ・夕方ミュージック。
──この4月から8年目に突入!いつかみんなでライヴを実現させたい!

恐らく賢明なるintoxicate読者なら、平日夕方(※2009年度は朝も)にNHK教育テレビで放送されている10分番組『クインテット(You gotta Quintet)』をご存じのはず。そして、この番組が子供たちだけでなく、その親や、そのまた親と3世代に渡って魅了し、プロの音楽家や日本に住む外国人等から人気を集めている理由も。

人間味あふれる個性的なミュージシャン人形たちが、日常の中で音楽の楽しさ・素晴らしさを伝えてくれる当番組で作曲や編曲を担当、ピアニストの〈アキラさん〉として自ら出演(※パペットの場合もある)もして、他の4人の仲間たちと演奏を繰り広げているのは、作曲家であり舞台やコンサートでも活躍中の宮川彬良だ。

「ミュージカルだと思って作っていますね。作家の下山(啓)さんからいただく台本には歌の歌詞と芝居が書いてあるから、音楽の発想もドラマから自然に見えてくるものを大切にしています。楽しいからってむやみにサンバ風にしたり(笑)、流行ってるから…とか、子供たちに受けがいいものを…って媚びてないんですよ、全然」

番組はこの4月で8年目に突入。これまでに膨大な数のオリジナル・ソングが生まれているが、そのサウンドは単にクラシックやジャズのテイストに留まらず、時に見せ物小屋風の仰々しさや、キャバレー・ソングのように猥雑で退廃的ないかがわしさを含みつつ、それでいてキュート…と子供向けらしからぬ面白さに満ちている。

「同じような音楽が世間にあふれている今の時代に一石を投じたいっていう我々の意思表示でもあります。あとは、とにかくシンセやクリックの技術を使わない、修正や細工も一切なしの生の音重視のこだわりも。歌のテンポや音程が多少ずれても、お芝居というシチュエーションの中ではそれがいい味になることもあるんですよ」

クラシックの壮大なオーケストラ曲を小編成のあたたかみのあるサウンドで聴かせたり、器楽曲を五重奏でカヴァーしたりと、アレンジの見事さにも定評がある。しかも(実際の演奏は宮川さんが絶大な信頼をおくアンサンブルベガのメンバー他によるものだが)パペットの動きがあまりに緻密で、本当に人形が演奏しているかのよう。特に最新DVDにも収録されている超絶技巧の《くまばちは飛ぶ》(リムスキー・コルサコフ作)は必見だ。

「番組の準備段階では、演奏の間中ずっと人形を映してもつまらないんじゃないかって心配をしていたんですが、人形劇を担当する劇団〈木ぐつの木〉がプロ根性で不可能を可能にしてくれた。管楽器の指遣いまで忠実に再現できるように改良してくれて…実はパペットは3人がかりで、そのうちの1人は音大を出た若手の演奏家が実際の手の動きを直に伝えているんです。5人のメンバーのうち僕だけが生身の人間ですが、作り手側が画面にちらっと登場することで、番組のリアリティというか、手作り感覚が出せてるんじゃないかと思っているんです」

もちろん何より番組の人気を支えているのが、主要4人の人形キャラクターの魅力だろう。白い顎髭の〈スコアさん〉(※声と歌:斎藤晴彦)はチェリストで、少々早口だが良識を備えた、楽団の賢い最年長。モジャモジャ頭と口髭の〈フラットさん〉(※玄田哲章)は木管楽器の担当で、食いしん坊の愛すべきおやじキャラ。金管楽器の担当でサッカー好きな元気青年〈シャープくん〉(※大澄賢也)。そして、楽団の紅一点でバイオリニストの〈アリアさん〉(※茂森あゆみ)。彼らの爆笑コントから生まれる、時に皮肉たっぷりの愉快な歌声が最高に楽しい。

「芸達者な声優陣の表現力と、ナチュラルな歌唱が番組の要です。いつの日かみんなでライヴを実現させたい!」

既成のジャンルにとらわれず、音楽のシャワーを頭から浴びるようなすがすがしさ。DVDでは楽器の音色を目で楽しんでいるかのような不思議な体験を。そしてCDを聴くと、クインテットの仲間の姿が目に浮かぶようだ。

 

コンサート情報3/14(日) 幸田町民会館 共演:アンサンブル・ベガ
 『宮川彬良&アンサンブル・ベガ』
3/21(日)大阪・鶴見区民センター 共演:大阪市音楽団
『宮川彬良&大阪市音楽Dahhhhn!』
3/31(水) NHKホール 共演:新日本フィルハーモニー交響楽団&千葉県少年少女オーケストラ
『オーケストラの日』
4/3(土) ザ・シンフォニーホール  共演:大阪フィルハーモニー交響楽団
『大阪フィルポップスコンサート』
4/25(日)茨城・茨城県神栖市 共演:新日本フィルハーモニー交響楽団
『コンチェルタンテII』
5/1(日)東京文化会館 共演:アンサンブル・ベガ
『宮川彬良&アンサンブル・ベガ』
http://akira-miyagawa.com/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年03月05日 19:04

更新: 2010年03月05日 19:14

ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)

interview & text : 東端哲也